福島県立美術館ブログ

「ミニ大津絵をつくろう!」

現在、当館企画展示室では「大津絵展」開催中です。

これにあわせて、13日(土)と14日(日)の2日間、エントランスホールに小さな体験コーナー「ミニ大津絵をつくろう!」を設けました。

江戸時代に東海道の大津周辺で旅人へのおみやげものとして親しまれた「大津絵」。

量産のため、版木押しや型紙で骨格をつくり、素早い筆づかいで色が塗られたものもありました。

今回は、和紙にスタンプされた黒い骨格を元に、色を塗ったり、表情を描き入れたりして、小さな大津絵をつくりました。

塗る前はこのような感じ。

 

左から《瓢箪鯰》、《大黒外法の相撲》、《鷲》、《鬼の念仏》の4種類。

顔の部分が抜けているので、表情を自由に描きこむことができます。

 

着彩の道具はポスカを準備。

基本の7色以外にも、使いたい色を自由に使って色を塗っていただきました。

 

みなさんとっても集中して塗ったり描きこんだりしていました。

完成したミニ大津絵の一部ご紹介。

 

元になっている黒い骨格は一緒ですが、色合いや表情によって全く異なる印象の作品が完成しました。

 

オリジナルのキャラクターを生み出す方もいて、発想に私たちスタッフもびっくり!

 

ご参加いただいた方からは、「たのしかった」、「塗り絵なんて久しぶりでおもしろかった」、「展覧会の思い出になった」などのご感想をいただきました!

短時間のワークショップでしたが、「大津絵」の魅力を感じていただけたらうれしいです。

ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

 

「もうひとつの江戸絵画 大津絵展」は6月28日(日)まで開催しています。

ぜひご来館ください。

ジャポニスム展 第六章

企画展「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展より、全6章からなる展示の様子を引き続き、ご紹介していきます。

 

今回は最終回、第6章「アール・デコとジャポニスム」です。

 

アール・ヌーヴォーに続く様式のアール・デコは、20世紀前半の両大戦間期に流行をみせた装飾様式です。
植物モチーフは抽象的な形となり、シンプルかつモダンなスタイルが人気を得ました。
また、工業の進展に伴い、数多くの新しい素材の使用が可能となったのも特徴的な点です。

 

本章で展示されるアール・デコ様式の作品は、日本美術の影響がアール・ヌーヴォーを超えて存続したことを示しています。

それでは、作品をご紹介していきます。

 

アール・デコを代表する作家、ルネ・ラリックの《ナーイアス図飾皿》(1920年頃)。
ギリシャ神話に登場する川や泉の妖精ナーイアスが型押し技法で表されています。
無数の水泡が妖精の体の動きに合わせるように揺らめき、躍動感を感じさせます。
まるで今まさに妖精が水中から浮かび上がってきたかのような錯覚を覚えます。

 

 

スウェーデンのエドワルド・ハルド、オレフォスガラス工場による《網にかかった魚文鉢》(1924年)。
器の周りに、漁網と網にかかった魚がぐるりと一周描かれている面白いデザインです。
水中で魚たちが、徐々に狭まる網の中で戸惑う様子が伝わってきます。

 

 

フランスのガブリエル・アルジー=ルソー《蝶文鉢》(1915年頃)。
茶色がかった色合いの蝶が羽を大きく広げて、器の周りを取り囲むように配されています。
羽の斑紋や立体的な造形など、なかなかリアルな蝶の表現です。器の淡い紫色と羽の緑色の色合いによって、幻想的な雰囲気が醸し出されています。

 

 

ドーム兄弟《ガラス水差》(1910年頃)。
ドーム兄弟は、アール・ヌーヴォー期から活躍していましたが、時代の流れに合わせてアール・デコ様式を取り入れた作品も手掛けるようになり、モダンなセンスによる造形で名声を保持しました。
本作は、表面に艶消しの加工を施して劣化しているような風味をわざと出しています。
フォルムのユニークさと相まって、特殊な色合いと質感により、存在感を感じさせます。

 

 

こちらもドーム兄弟、《多層間金箔封入小鉢》(1925-1930年)。
典型的なお茶碗の形です。色ガラスペーストが全体に滲みとして広がり、不規則な形状の金箔がガラス層の間に挟み込まれることによって、高貴な輝きを放っています。
驚くほど美しい本作は、日本の造形美と漆工芸の世界を集約した名品と言えるでしょう。

 

 

ジャポニスムの影響は、様々な形で表現を変えながら、アール・ヌーヴォー、そしてアール・デコまで続いていたことが分かります。

 

 

 

「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展の紹介は以上となります。

約100年以上前に起こった東西文化交流の熱を、その結果生み出された美しい名作群の魅力を少しでも感じて頂けたら幸いです。

本展は残念ながら中止となってしまいましたが、新型コロナウイルスが収束し、美術館で皆さまとまたお会いできる日を楽しみにしております。

ジャポニスム展 第五章

企画展「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展より、全6章からなる展示の様子を引き続き、ご紹介していきます。

 

今回は第5章「もうひとつのアール・ヌーヴォー―ユーゲントシュティール」です。

 

19世紀末から20世紀初頭にかけて欧米で同時多発的に流行したアール・ヌーヴォー様式ですが、その表現は主にふたつの潮流から成っていました。

ひとつは、植物など有機的なモチーフを曲線美豊かに、アシンメトリーな配置で表すフロレアル・アール・ヌーヴォーというもので、フランスを中心に流行しました。

もう一方は、主にドイツ語圏でもてはやされた幾何学的アール・ヌーヴォー「ユーゲントシュティール」です。
直角や幾何学的なディティールが特徴で、左右対称に表すシンメトリー性や様式化された植物モチーフが好まれました。

 

本章のユーゲントシュティールの作品を見ると、3章で紹介した作品群とは明らかにデザインの特徴が異なることが分かります。

 

それでは、これから作品をご紹介していきます。

ベルリン王立磁器製作所による、(右):《花束文鉢》(1900-1905年)と、(左):《四つ葉クローバー文花器》(1900-1905年)。
1751年に設立されたベルリン王立磁器製作所は、ユーゲントシュティールの時代に最盛期を迎えました。
豊かなフォルムと装飾モチーフで有名となり、幾多の万博で成功を収めました。
両作品とも植物が様式化されており、洗練された優雅さを感じさせます。

 

 

こちらもベルリン王立磁器製作所、(右):《エナメル彩花器》(1910年頃)と、(左):《植物文花器》(1910年頃)。
鮮やかなエナメル彩と小さな金の連珠で装飾されたデザインが規則正しいリズムで配されています。
同製作所が誇る装飾図案の豊富さ、技術の高さが分かります。

 

 

ドイツのビレロイ&ボッホ製陶所による《樹文花器(一対)》(1903年)。
幾何学的に様式化された濃紺の樹木が立ち上がっています。スタイリッシュな造形で、ユーゲントシュティールの特徴を明確に示しています。

 

 

最後にご紹介するのは、フランスのウッツシュナイダー社の《洋蘭文ティーセット》(1910年頃)。
クリーム色の器は、いずれも両側面に豪華な洋蘭のモチーフが配され、金彩や緑色の水滴模様で装飾されています。
このようなティーセットでお茶会をしたらとても優雅なひと時となるでしょうね。

 

 

同じアール・ヌーヴォー様式といえども、ユーゲントシュティールでは幾何学的デザインやシンメトリー性が明確に示されているのが分かります。
同時代の流行でも国や文化圏によって、デザインの特徴が大きく異なる点が面白いと思います。

    

 

次回は最終章の第6章をご紹介します。

ジャポニスム展 第四章

企画展「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展より、全6章からなる展示の様子を引き続き、ご紹介していきます。

 

今回は第4章「建築の中の装飾陶板―1900年パリ万博のビゴ・パビリオン」です。

 

古くから陶器は、壁や屋根の建築資材やカバータイルとして使われてきましたが、19世紀末になると、工場生産の導入によって大きなサイズの陶板の製造が可能となりました。様々な陶器が作られ、鉄筋コンクリート構造の建造物を飾ったのです。
建築を装飾するそれらの陶器にも、表現のコンセプトや釉薬の使い方において、日本美術の影響は見られます。

 

ここで紹介する作品群は、1900年パリ万博でお披露目された建築用陶器群、いわゆるビゴ・パビリオンの建築装飾の一部です。
建築家ジュール・ラヴィロットが設計・建設し、陶器群はビゴ社が製造しました。

 

このパビリオンは博覧会でグランプリを受賞した後、ブダペスト国立工芸美術館館長によって買い上げられ、ブダペストに移送されました。
しかし、地下室に地下室に仕舞い込まれたそれらの建築装飾は、世界大戦後の動乱と共に長い間忘れ去られてしまいました。
ところが、美術館改修工事の折に発見され、1996年に同館で行なわれた展覧会でようやく一部が展示されるに至りました。

国外においてこれほどまとまった形で展示するのは、本展が初めてだそうです!大変貴重だということが分かりますね。

 

それでは、作品をご紹介していきます。

デザイン:ポール・ジューヴ、ビゴ社製《牡牛図フリーズ装飾陶板》(1898-1900年)。
1900年パリ万博のメインエントランスは、巨大な動物のフリーズで飾られていたそうですが、
本作はメインエントランスの作品をビゴ・パビリオン用に小型化したものの一部です。
万博の雰囲気を今に伝える作品です。

 

 

デザイン:G.ニコレ、ビゴ社製《水中図フリーズタイル》(1898-1900年)。
こちらも生き物を描いた作品。大小さまざまな魚やヒラメが泳いでいます。
水草も描かれていて、よく見ると細かく表現されていることが分かります。

 

 

デザイン:アルフレッド=ジャン・アルー、ビゴ社製《蛙図フリーズタイル》(1898-1900年)。
蛙の脚がタイルをまたいでいますが、ここで分割するのは理由があります。
並べる際に、タイルごとに焼き上がりの色が異なっていても自然に見せられるためだそうです。工夫されているのが分かります。

 

 

デザイン:ピエール・ロシュ、ビゴ社製《自転車に乗る人物図フリーズタイル》(1898-1900年)。
自転車を全速力で漕ぐ人物の列が描かれています。丸い輪二つで自転車を表し、上半身から布がたなびくことで疾走感が表現されています。
19世紀に発展した産物のひとつが自転車。当時の自転車ブームを生き生きと伝えています。

 

 

         

(左):ビゴ社製《草花図壁面カバー装飾陶板》(1898-1900年)。
大型の豪華なタイルは、建造物の内装用に、玄関ホールの内壁カバータイルとして制作されました。
本作は、濃淡のある青い地に植物が2枚にわたって大きく表されています。玄関にこのような装飾があると、とても優雅な気持ちになるでしょうね。


(右):デザイン:ヤーノシュ・バッハ、ジョルナイ陶磁器製造所製《蔓花図フリーズタイル-建築用陶器》(1911年)。
ハンガリーのジョルナイ陶磁器製造所は、芸術的な装飾品ばかりでなく、数百種に上る建築用装飾陶器も製造しました。
フリーズ用タイルの一部である本作は、かつてブダペストのある高級賃貸住宅の窓枠を飾っていたそうです!

 

 

このように華やかで細かな装飾を施した陶器で建築物を彩るのは西洋的な文化ですが、
特に陶磁器の生産が盛んなハンガリーでは、自国を代表する文化の一つであるとも言えるでしょう。

実際、ブダペスト国立工芸美術館の屋根はジョルナイ陶磁器製造所によるタイルが使用されていて、素晴らしい美しさを誇っています。

 

次回は第5章をご紹介します。

ベッツィ・ワイエス夫人を偲んで

アメリカの画家アンドリュー・ワイエス(1917-2009)のベッツィ夫人が4月22日に98歳で亡くなられました。

ワイエスは当館のコレクションにとって、とても重要な画家の一人です。常設展示室の三番目の落ち着いた部屋の中央に掛けられた《松ぼっくり男爵》を、一度はご覧になった方も多いのではないかと思います。

親愛なる家族や親しい友人たち、そしていつも目にする日常の風景をとても大事に描き続きたワイエスにとって、ベッツィ夫人はインスピレーションの源であり、よき理解者であり、いつもそばにいる最愛の人でした。すでに天国に召されたワイエスの傍らで、おそらく微笑んでおられることでしょう。

 

ワイエスの孫娘、ビクトリアさんが制作した祖父母への追悼のビデオをご紹介いたします。

皆さまと共に、アンドリューとベッツィ夫妻の人生を振り返り、ご冥福をお祈りしたいと思います。

https://vimeo.com/410013185

 

ただいま、コロナウィルス感染防止のため休館をしておりますが、開館した折には、またワイエスの作品を見に来ていただければ嬉しいです。

 

 

ジャポニスム展 第三章

企画展「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展より、全6章からなる展示の様子を前回に引き続き、ご紹介していきます。

 

今回は第3章「アール・ヌーヴォーの精華―ジャポニスムを源流として」。本展のメインの章になります!

 

アール・ヌーヴォー様式の源泉のひとつとなり、芸術のあらゆる領域へと広がりを見せたジャポニスム。
本章では、作品を特徴に基づいて4つのセクションに分類し、体系的にご紹介しています。

 

 

 

第一セクション:花のモチーフ

西洋美術においても、植物など自然の描写は昔から行われてきましたが、それらはほとんど物語画や人物画の背景であったり、教訓的な意味を担った静物画であったりしました。

一方、日本美術では、植物の造形美そのものが作品の主題として成り立ち、茎や蔓による曲線美や花の可憐さなど、表現は多様に富んでいました。
また、構図もアシンメトリー(非対称)で、細部の表現は精緻で洗練されたものでした。

このような日本美術の特徴が活かされたアール・ヌーヴォー様式の作品が並びます。

  

      エミール・ガレ《洋蘭文花器》1900年頃            エミール・ガレ《クレマチス文銀製台付花器》1900年頃 

 

 

   

     ジョルナイ磁器製造所《葡萄新芽文花器》1898-99年             ドーム兄弟《水辺風景図花器》1910年頃

 

 

第二セクション:表面の輝き

日本の品々のうちでも、蒔絵の漆芸品には大きな意義がありました。
表面に蒔かれた金や銀の粉の煌めきは、古くから黄金を特別視していた西洋の人々にとって特に魅力的に映りました。

ジャポニスムはアメリカでも流行しましたが、ルイス・カンフォート・ティファニーも日本工芸の金属的な輝きに魅せられたひとりです。
ティファニーが開発した虹色の光を放つファブリルガラスは、類いまれな華やかさと洗練さを備えたものですが、日本の金工芸の影響をも想起させます。

 

 

 

第三セクション:伝統的な装飾モチーフ

日本のデザイン表現の特徴のひとつに、植物や雲や波などの自然の装飾文様・モチーフを繰り返し反復させるという手法があります。

ヨーロッパの工芸界もこの日本美術の装飾表現を採用しましたが、反復するモチーフを正確に絵付けするのは非常に繊細な作業でした。

ジョルナイ陶磁器製造所は、玉虫色に輝くエオシン彩を用いたり多彩な色合いでもって描き出し、驚くほど美しく細密な装飾表現を実現させています。

   

成型 デザイン:シャーンドル・アパーティ・アブト            ジョルナイ陶磁器製造所《黄色のヤグルマギク文花器》1900年頃
ジョルナイ陶磁器製造所《花瓶》1903年

                                                  

                                                                            

          左:《花煙帯文花器》1898年、右:《天空風景文花器》1898年 ともにジョルナイ陶磁器製造所作

 

 

第四セクション:鳥と動物

動物のモチーフは、西洋美術においても古くから様々な形で描かれてきましたが、脇役的な立場で描写される場合が多く、主役として扱われることはあまりありませんでした。

一方の日本美術では、動物の描写が際立っており、作品の要として描き出されることが多くありました。
動物の特性を観察し、生き生きと面白く表現した浮世絵や根付けは、ヨーロッパ美術の動物表現にも影響を与えました。

   

 ルイス・カンフォート・ティファニー《孔雀文花器》1898年以前          エミール・ガレ《昆虫文花器》1889年以前

 

 

    

  シャーンドル・アパーティ・アブト、ジョルナイ陶磁器製造所     左:ロイヤルドルトン社《ヨークシャー豚像》1905年頃
 《狩りをする雌ライオン像》1908年                 右:チャールズ・ジョン・ノーク、ロイヤルドルトン社
                                  《スコッチテリア像》1904-10年

 

 

 

芸術家が日本美術の表現を吸収して理解し、自分なりの表現へと昇華させていった跡が作品から感じられますね。

現在ほど情報量の波に溢れていなかった時代に生じた東西交流が、このような形で美しい作品群に結晶したことを考えると感慨深いです。

 

 

 

次回は4章をご紹介します。

ジャポニスム展 第二章

企画展「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展より、全6章からなる展示の様子を前回に引き続き、ご紹介していきます。

 

今回は第2章「日本工芸を源泉として―触感的なかたちと表面」です。

 

東洋の工芸では、作品の形状に自然の造形をそのまま「かたち」として取り入れることが多々あります。たとえば、瓢形の器や果実の形をした器などです。
このような発想は、古代ギリシャやローマ時代の造形を伝統的なフォルムとして参照してきたヨーロッパの人々にとって新鮮なものでありました。 

また、西洋文化では釉薬や顔料は、表面を均一に覆い、計算通りの完璧な仕上がりとなった場合に高く評価されました。
その一方、東洋では、作品の焼成中に起こる事態や偶発性も制作過程のひとつとしてとらえ、自由な創作の余地をはらんでいました。 

このような東洋の陶磁器の影響を受けて、多くのヨーロッパの作家が、東洋的なフォルムを採用したり、表面に特殊な色合いや質感を出そうと釉薬の様々な実験を行なったりし、成果を収めました。

 

 

 

それでは、2章の作品をいくつかご紹介していきます。

 

こちらは、スウェーデンのロールストランド磁器製造所作の《結晶釉花器》(1903年頃)です。
シンプルな色と形が、結晶釉の美しさを引き立てています。雪の結晶のようにも、咲き誇る桜の花びらのようにも見えてくるほど美しいです。
気品に満ちていて、日本人の感性に強く響くものがあります。

 

 

 

続くこちらも、ハンガリーのジョルナイ陶磁器製造所作の《結晶釉花器》(1902年)。
瑠璃色が美しく輝く作品です。縦方向に濃く流れる結晶の蔓とその周りを染める淡い色彩は、まるで青い藤の花を彷彿とさせます。

 

 

 

ハンガリーのイエネー・ファルカシュハージ=フィッシェルとヘレンド製陶所が制作した《瓢形花器》(1901年)です。
瓢箪の形は、東洋の工芸に特徴的な形です。また、このくすんだ色合いと不規則に浮かぶ茶色の斑紋が日本らしさを一層感じさせます。
ヘレンド製陶所はハンガリーの陶磁器ブランドとして、テーブルウェアなどで有名ですが、かつてはこのようなジャポニスムの作品も手掛けていたんですね。 

 

 

   

こちらは、スウェーデンのアウグスト・ヘルマン・ノイド作の《青春と老いを象徴する飾壺》(1896年)です。
不思議な球根型をした作品には、片面に、髪に花を挿した若い女性の肖像が、もう片面にはしわだらけの老婆の顔が配されており、「青春」と「老い」を象徴的に示しています。時の流れはまたたく間に移ろいゆき、生命は儚いというメッセージを伝えています。
釉薬の濃淡と浮彫で表情を細かく描き出す技術が素晴らしいです。 

 

 

 

最後にご紹介するのは、テプリツェ=ツルノヴァニ製陶所の《ラスター結晶釉花器》(1900年頃)です。
全体を紫や青、緑、黄色の金属光沢のある結晶ラスター彩が覆っています。
光の当たり具合によって色合いが変わりますが、日本工芸で使われる螺鈿(貝殻の内側の七色に光る層を装飾に用いる技法)と通じているようにも思われます。
魅惑的な色合い、結晶釉のきらめきと光沢感、それらを効果的に引き出す不思議な形状。いずれを見ても完成度の高い作品です。

 

 

1章で表された日本的なモチーフは影を潜めても、かたちと表面の質感から日本らしさが感じられます。
新しい技法による表現に果敢に挑戦した芸術家の努力を思い浮かべると素敵ですね。

 

   

   

 

次回は3章をご紹介します。

「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ展」第一章

当館は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、5月10日まで企画展・常設展含め全館臨時休館となりました。

企画展「ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」についても残念ながら中止が決定となりました。再開を楽しみにされていた皆様には心よりお詫び申し上げます。何卒ご理解の程、お願い申し上げます。
観覧券の払い戻し対応については、本展公式HPよりご確認ください。
http://www.fct.co.jp/Japonisme_F/



中止を受けましたが、会場では美しい作品群がいまも展示されています。
ぜひ皆様にご覧になっていただきたいので、前回に引き続き、本展の紹介を行なっていきます。

 

本展は全6章で構成されています。

はじめの第1章は「自然への回帰―歴史主義からジャポニスムへ」

ヨーロッパの一般大衆が初めて日本文化に触れる機会を得たのは、1862年のロンドン万国博覧会と1867年のパリ万国博覧会でした。
海を渡りやってきた日本の珍しい品々は、古典的な芸術ルールに慣れていたヨーロッパの人々に衝撃を与え、多くの芸術家や工房が日本趣味に基づく作品の制作に着手しました。

ここでは、日本美術の影響がもっとも強く認められるジャポニスムの初期段階の作品を紹介しています。
日本的な装飾や直線的・平面的な表現、大胆な構図など、日本らしさが明確に表現されています。

 

しかし一方で、作品の仕上げ方は、設計通りの完璧な仕上がりが目指されており、日本美術の特徴のひとつである偶発性の美の追求は無視されています。
なめらかな表面と計算通りにデザインが精緻に反映されているのが優れた作品という、西洋の伝統的な意識は変わらずに示されていました。

 

それでは作品を何点かご紹介いたします。

  

こちらは、ハンガリーを代表する製陶所のジョルナイ陶磁器製造所が作成した《滝に植物蝶文スツール》(1896年)。
ユーリア・ジョルナイが日本の布地を見本にデザインしました。
蝶の後ろに縦に長く伸びているのが滝です。もともとの布地デザインでは滝は青色でしたが、黄金色に変わりました。(筍のようにも見えるような?)
背景の赤に色が映えて調和のとれた豪華で美しい装飾となっています。

 

 

  

続いては、マルク=ルイ・ソロン(伝)、ミントン社制作の《尾長猿文飾壺》(1877年頃)。
深い藍色の地をバックに、イチジクの木の枝を渡る尾長猿が精巧な絵付けで描かれています。また、幾何学文様が描かれた丸文が何か所かに配されています。
躍動感あふれる見事な造形と装飾のいずれにおいても日本美術の影響が表れている逸品です。

 

 

  

展示室でひときわ目を引くのが、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家エミール・ガレの《菊花文花器》(1896年頃)。
日本美術でよくみられる帯状の霞や靄の上に、色鮮やかな菊の花々が描かれています。
植物学者としての側面ももっていたガレは、自邸の庭で2,500種以上の植物を栽培し、その中には日本由来の品種も相当ありました。
日本のことを「キクの国」と呼び、日本美術に強い興味を抱いていたガレの趣味が顕著に示されています。

 

 

  

                                

こちらは、フランスの陶芸家ジョゼフ=テオドール・デックによる《花鳥文花器》(1880年頃)です。
みずみずしい自然の描写、今まさに飛んできたかのような生命力に満ちた鳥の表現が素晴らしいです。
日本の花鳥画を思わせる作品ですが、黄色と目の覚めるようなスカイブルーの色の組み合わせは日本では中々生まれなかったのではないでしょうか。

また、作品左右の側面には、口に輪を咥えた獅子がいます。東西の表現が混ざったような造形に感じられます。
見れば見る程おもしろい作品です。

 

 

    

最後にご紹介するのは、フランスのフランソワ・ロラン、ロラン&フィス・ファイアンス製陶所作《花枝にとまる鳥図花器》(1872年頃)です。
灰色の地にダイナミックな筆使いで花鳥図が描かれています。正面には、花のもと枝にとまる鳥が一匹、裏面には、植物のあいだを二匹のトンボが飛んでいます。
日本の陶磁器や水墨画を参照して描いたのでしょうか。手本を見つめながら絵付けに励む作者の姿が想起されます。

 

 

ほかにも1章ではジャポニスムの影響がよく分かる作品群が展示されています。

当時西洋で巻き起こった日本ブームの熱が伝わってくるようです。

  

 

 

 

次回は第2章をご紹介します!

ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ

3月24日より開幕した企画展「ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」。

5月10日までの開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、4月19日から5月6日まで急遽臨時休館となりました。

観に行く予定だったけれども行けなかったという方もいらっしゃるかと思います。web上ではありますが本展についてこれから何回かにわたりご紹介していきたいと思います!

  

 

 

まずは、素晴らしい作品群をお貸出し頂いた「ブダペスト国立工芸美術館」についてご説明します。

同館の創設は1872年に遡ります。1896年に建築家エデン・レヒネルの設計によって建物が生まれ変わり、ハンガリアン・アールヌーヴォーを代表する記念碑的建築となりました。まさに建物自体が作品です。(ちなみに美術館の屋根には、ジョルナイ陶磁器製造所製のタイルが使われているんですよ!)

そして当時の館長イエネー・ラディシッチ氏の下で、若い世代の芸術家達を刺激するような名品・優品群が収集され、また同時に彼ら現代作家の作品も多く購入されました。その結果、国際的に名高い第一級のアール・ヌーヴォーコレクションが形成されるに至ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場展示室にて ブダペスト国立工芸美術館の外観・内観写真紹介コーナー

 

 

本展のテーマは「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」。

同館から本展には、日本趣味、いわゆるジャポニスムの影響が感じられる作品群がセレクトされ出品されています。

19世紀半ばに開国した日本から多くの文物が西洋に渡り、欧米では日本ブームが巻き起こりました。新しい表現を開拓したいと模索していた芸術家達にとって、目新しい日本の文物や美術作品はまさに天からの啓示のようなものでした。

浮世絵が印象派やゴッホなどのポスト印象派に影響を与えたことは広く知られているかと思いますが、このように日本の品々が欧米に影響を与えた文化現象のことを「ジャポニスム」というんですね。

 

ジャポニスムが瞬く間にもてはやされた後、19世紀末に流行を見せるのが「アール・ヌーヴォー」様式です。

アール・ヌーヴォーは表現としては、有機的な植物モチーフや流線的な表現が特徴です。その根底には、自然そのものの造形美に目を向け、芸術品に取り入れる日本美術の考え方・姿勢が影響源のひとつとして表れています。

 

 

本展に出品されている作品も、日本美術の造形的特徴やモチーフを率直に反映させたものから、さらに一歩踏み込み、作者のオリジナル性溢れる表現へと昇華させたものまで様々な形で日本美術のエッセンスが表現されています。

ジャポニスムからアール・ヌーヴォー期の宝石のように美しい工芸品を通して、西洋から見た日本、また私たちが考える「日本らしさ」「西洋らしさ」に思いを馳せることができる展覧会です。

 

次回からは、展示風景をご紹介していきます!