ジャポニスム展 第二章

企画展「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展より、全6章からなる展示の様子を前回に引き続き、ご紹介していきます。

 

今回は第2章「日本工芸を源泉として―触感的なかたちと表面」です。

 

東洋の工芸では、作品の形状に自然の造形をそのまま「かたち」として取り入れることが多々あります。たとえば、瓢形の器や果実の形をした器などです。
このような発想は、古代ギリシャやローマ時代の造形を伝統的なフォルムとして参照してきたヨーロッパの人々にとって新鮮なものでありました。 

また、西洋文化では釉薬や顔料は、表面を均一に覆い、計算通りの完璧な仕上がりとなった場合に高く評価されました。
その一方、東洋では、作品の焼成中に起こる事態や偶発性も制作過程のひとつとしてとらえ、自由な創作の余地をはらんでいました。 

このような東洋の陶磁器の影響を受けて、多くのヨーロッパの作家が、東洋的なフォルムを採用したり、表面に特殊な色合いや質感を出そうと釉薬の様々な実験を行なったりし、成果を収めました。

 

 

 

それでは、2章の作品をいくつかご紹介していきます。

 

こちらは、スウェーデンのロールストランド磁器製造所作の《結晶釉花器》(1903年頃)です。
シンプルな色と形が、結晶釉の美しさを引き立てています。雪の結晶のようにも、咲き誇る桜の花びらのようにも見えてくるほど美しいです。
気品に満ちていて、日本人の感性に強く響くものがあります。

 

 

 

続くこちらも、ハンガリーのジョルナイ陶磁器製造所作の《結晶釉花器》(1902年)。
瑠璃色が美しく輝く作品です。縦方向に濃く流れる結晶の蔓とその周りを染める淡い色彩は、まるで青い藤の花を彷彿とさせます。

 

 

 

ハンガリーのイエネー・ファルカシュハージ=フィッシェルとヘレンド製陶所が制作した《瓢形花器》(1901年)です。
瓢箪の形は、東洋の工芸に特徴的な形です。また、このくすんだ色合いと不規則に浮かぶ茶色の斑紋が日本らしさを一層感じさせます。
ヘレンド製陶所はハンガリーの陶磁器ブランドとして、テーブルウェアなどで有名ですが、かつてはこのようなジャポニスムの作品も手掛けていたんですね。 

 

 

   

こちらは、スウェーデンのアウグスト・ヘルマン・ノイド作の《青春と老いを象徴する飾壺》(1896年)です。
不思議な球根型をした作品には、片面に、髪に花を挿した若い女性の肖像が、もう片面にはしわだらけの老婆の顔が配されており、「青春」と「老い」を象徴的に示しています。時の流れはまたたく間に移ろいゆき、生命は儚いというメッセージを伝えています。
釉薬の濃淡と浮彫で表情を細かく描き出す技術が素晴らしいです。 

 

 

 

最後にご紹介するのは、テプリツェ=ツルノヴァニ製陶所の《ラスター結晶釉花器》(1900年頃)です。
全体を紫や青、緑、黄色の金属光沢のある結晶ラスター彩が覆っています。
光の当たり具合によって色合いが変わりますが、日本工芸で使われる螺鈿(貝殻の内側の七色に光る層を装飾に用いる技法)と通じているようにも思われます。
魅惑的な色合い、結晶釉のきらめきと光沢感、それらを効果的に引き出す不思議な形状。いずれを見ても完成度の高い作品です。

 

 

1章で表された日本的なモチーフは影を潜めても、かたちと表面の質感から日本らしさが感じられます。
新しい技法による表現に果敢に挑戦した芸術家の努力を思い浮かべると素敵ですね。

 

   

   

 

次回は3章をご紹介します。