ジャポニスム展 第三章

企画展「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」展より、全6章からなる展示の様子を前回に引き続き、ご紹介していきます。

 

今回は第3章「アール・ヌーヴォーの精華―ジャポニスムを源流として」。本展のメインの章になります!

 

アール・ヌーヴォー様式の源泉のひとつとなり、芸術のあらゆる領域へと広がりを見せたジャポニスム。
本章では、作品を特徴に基づいて4つのセクションに分類し、体系的にご紹介しています。

 

 

 

第一セクション:花のモチーフ

西洋美術においても、植物など自然の描写は昔から行われてきましたが、それらはほとんど物語画や人物画の背景であったり、教訓的な意味を担った静物画であったりしました。

一方、日本美術では、植物の造形美そのものが作品の主題として成り立ち、茎や蔓による曲線美や花の可憐さなど、表現は多様に富んでいました。
また、構図もアシンメトリー(非対称)で、細部の表現は精緻で洗練されたものでした。

このような日本美術の特徴が活かされたアール・ヌーヴォー様式の作品が並びます。

  

      エミール・ガレ《洋蘭文花器》1900年頃            エミール・ガレ《クレマチス文銀製台付花器》1900年頃 

 

 

   

     ジョルナイ磁器製造所《葡萄新芽文花器》1898-99年             ドーム兄弟《水辺風景図花器》1910年頃

 

 

第二セクション:表面の輝き

日本の品々のうちでも、蒔絵の漆芸品には大きな意義がありました。
表面に蒔かれた金や銀の粉の煌めきは、古くから黄金を特別視していた西洋の人々にとって特に魅力的に映りました。

ジャポニスムはアメリカでも流行しましたが、ルイス・カンフォート・ティファニーも日本工芸の金属的な輝きに魅せられたひとりです。
ティファニーが開発した虹色の光を放つファブリルガラスは、類いまれな華やかさと洗練さを備えたものですが、日本の金工芸の影響をも想起させます。

 

 

 

第三セクション:伝統的な装飾モチーフ

日本のデザイン表現の特徴のひとつに、植物や雲や波などの自然の装飾文様・モチーフを繰り返し反復させるという手法があります。

ヨーロッパの工芸界もこの日本美術の装飾表現を採用しましたが、反復するモチーフを正確に絵付けするのは非常に繊細な作業でした。

ジョルナイ陶磁器製造所は、玉虫色に輝くエオシン彩を用いたり多彩な色合いでもって描き出し、驚くほど美しく細密な装飾表現を実現させています。

   

成型 デザイン:シャーンドル・アパーティ・アブト            ジョルナイ陶磁器製造所《黄色のヤグルマギク文花器》1900年頃
ジョルナイ陶磁器製造所《花瓶》1903年

                                                  

                                                                            

          左:《花煙帯文花器》1898年、右:《天空風景文花器》1898年 ともにジョルナイ陶磁器製造所作

 

 

第四セクション:鳥と動物

動物のモチーフは、西洋美術においても古くから様々な形で描かれてきましたが、脇役的な立場で描写される場合が多く、主役として扱われることはあまりありませんでした。

一方の日本美術では、動物の描写が際立っており、作品の要として描き出されることが多くありました。
動物の特性を観察し、生き生きと面白く表現した浮世絵や根付けは、ヨーロッパ美術の動物表現にも影響を与えました。

   

 ルイス・カンフォート・ティファニー《孔雀文花器》1898年以前          エミール・ガレ《昆虫文花器》1889年以前

 

 

    

  シャーンドル・アパーティ・アブト、ジョルナイ陶磁器製造所     左:ロイヤルドルトン社《ヨークシャー豚像》1905年頃
 《狩りをする雌ライオン像》1908年                 右:チャールズ・ジョン・ノーク、ロイヤルドルトン社
                                  《スコッチテリア像》1904-10年

 

 

 

芸術家が日本美術の表現を吸収して理解し、自分なりの表現へと昇華させていった跡が作品から感じられますね。

現在ほど情報量の波に溢れていなかった時代に生じた東西交流が、このような形で美しい作品群に結晶したことを考えると感慨深いです。

 

 

 

次回は4章をご紹介します。