瀬戸語録:「瀬戸正人写真学校 in 福島」第5回報告
写真学校の最終回が、12月26日、雪の中、開催されました。
この日は、1月5日から始まる「成果展」の展示作業がメインでしたが、前回、受講生のみなさんからご要望がでて、急遽、瀬戸さんによるギャラリートークが行われることになりました。
通常の13:30開始の1時間前、12:30に企画展示室入口に集合。
美術館でも慌てて告知をしたので、写真学校の受講生以外の方も来られ、約50名の方とともに、会場をめぐりながら瀬戸さんのお話しを聞きました。
まずは、ギャラリートークの様子を、例によって瀬戸さんの言葉を拾いながらご紹介します。
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〈Living Room, Tokyo〉
当初から等身大の大きさで展示することを考え、大型カメラで撮っていた。今回の展覧会でそれがようやく叶った。
ここに写し出された外国人たちの見えない背景を、写真だからこそ写せるんじゃないかと思った。見えないものを撮りたい。
記憶が埋め込まれているのが写真の特徴。絵と違って具体的に見える物しか撮れない。でも写っているものを見せたいわけじゃない。それを見た人の眼を見て欲しい。
写真ってなんだろう。
まぼろし。写真はフィクション。でもリアルでないとフィクションにならない。
まぼろしのように見せるためにリアルに撮った。
その人がどんな本を読んでいるのか、本棚の本のタイトルまで全部読めるように撮った。
僕らの人生もまぼろしだという感覚。ひとりひとりの記憶の地図を辿ってみたら幻だった、本当に人生を歩いてきたのか自信が持てない、そんな感覚がある。
〈Picnic〉
最初35mmカメラで撮ろうと思ってお願いしたけれど断られた。ところが、三脚のついた大型カメラを持って、正面から正々堂々と近づくとみんな快く引き受けてくれる。写真の半分以上は交渉力。
聞いてみたら、付き合って平均3か月のカップル。見方によっては儚い風景。
〈Binran〉
檳榔(びんろう)は、南太平洋から中東まである、たばこと同じような嗜好品。しかしこうして販売しているのは台湾だけ。夜道を歩いていると、ネオンに輝くビンラン・スタンドはきれいだった。
デジカメ、5000万画素の中判カメラで撮っている。
カメラは、自分が見ていない、感じていたいものまで写し撮ってしまうもの。
〈Silent Mode 2020〉
モデルはどこも見ていない。視点がない。カメラとつながっていない。僕とこの人の間には断絶がある。
シャッタースピードは5秒。5秒、じっとしてもらう。その間に自分らしさというものが消えていくはずだ、という考え。そのための時間が必要。
その人らしさ、表情はなくなって欲しい。もしかしたら、そこに人間の哀しみ、人生観とかが浮き出て来るんじゃないか。そう写ればいいなぁと期待して撮っている。
〈Fukushima〉
長年東京に住んでいるけれど、震災後、福島いいなぁと、いつの間にかそう思えるようになった。
水の波紋の写真。波紋が写っているだけ。でもここから何かを感じて欲しい。
原発事故がなかったら、こういう気持ちにならなかったかもしれない。こういうものの見方をしなかったかもしれない。
セシウムは見えない。どうやって撮ったいいかわからないけれど、写るはずだという思いがあった。
見えないものを見せたい。その決意をこれらの写真(写真集『Cesium-137Cs-』)で表明したかった。
桃畑の写真。きれいな写真だけど、大げさに言うと、この文明が破綻しつつあるんじゃないかということを写したいと思った。
〈Bangkok, Hanoi〉
父はラオスで終戦を迎えた。メコン川に引き揚げ船が来ると上官に言われたが、負けた日本に帰れないだろうと考え、現地に残る。しかし離脱したということは脱走したということ。名乗り出ることもできず、タイのベトナム人社会に受け入れてもらい、やがて写真館を経営し、家族を持って暮らした。
国王が父の住む町に来た時に、町の他の写真館がみな断った随行カメラマンの仕事を父は引き受けた。その国王の写真で一財産を築くことができた。もしこのお金がなかったら、福島に戻ってこなかったかもしれない。
父から、どんな仕事も断らないことを教わった。そこから重要なつながりが広がっていくかもしれない。そうやって仕事をしてきた。
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さて、1時間ほどのギャラリートークが終了し、いよいよ成果展の展示作業です。
正面の壁に展覧会の看板と瀬戸さんのステートメントを展示。
両脇に受講生のみなさんの写真を貼ります。複数展示写真がある人は、写真を左右にわけ、なるべくかたまらないように、ばらばらに、まずはマスキングテープで思い思いに壁に留めていきます。
上下も左右も気にすることなく、まずは貼っていく。その後、全体のバランスを見ながら、少しずつ動かして調整していきました。
位置が決まったら、プッシュピンで壁に貼っていきます。
キャプションは付けません。そのかわりそれぞれの番号を写真の下に貼り、誰の写真かわかるようにしました。
テーマもなく、誰の写真かもすぐにはわかりません。
これまでの講座で瀬戸さんのお話しを聞きながら、写真から何かにじみ出て来るもの、そういうものを目指して写真を撮り、選び、あらためて写真に向き合ってきました。写真に写し出されたそれぞれの記憶の片鱗が集まることで、この展覧会全体から、見る方々に伝わるものが何かあるのではないかと思います。
皆さんで記念写真を撮り、瀬戸さんから卒業証書をいただき、この写真学校は終了しました。
瀬戸正人という写真家を知り、瀬戸さんとともに写真について考え、もっと写真が好きになってもらえたのであれば大変嬉しいです。
是非たくさんの方に展示を見ていただき、その喜びを共有していただければと思います。