視覚障がい者のための鑑賞ワークショップを開催
昨年度の「ベン・シャーン展」に引き続き、今年度も3月21日(金・祝)に視覚障がい者の方々と収蔵作品のベン・シャーンを鑑賞するワークショップを開催しました。
午前と午後の2回。午前は10:30から。午後は14:00のスタート。
講師は真下弥生さん(ルーテル学院大学非常勤講師)と半田こづえさん(筑波大学大学院)。
前日は雪が降る寒い日で、足元が悪いのではないかと心配しましたが、当日はみなさん予定通りというよりも、楽しみにされていたようで早々とお集まりいただき、いい雰囲気でスタートしました。
まずは自己紹介。
そして介添えの方々も一緒に、ウォーミングアップ。
簡単な図形の触図を触ってみました。見てはいけません。私もやってみたのですが、意外と難しいものです。丸と八角形がなかなかわかりません。触図を把握するのには思ったより時間がかかるのですね。そういうことを頭に置いて、まわりの私たちもゆっくりと鑑賞をサポートしていきたいと思いました。
さて本番です。作品はベン・シャーンの版画作品《詩篇133篇》(1963年 リトグラフ・紙)。
鳩が2羽向き合っています。その鳩を囲む唐草模様。そこに旧約聖書の詩篇133篇が書き込まれています。絵の構図は複雑なので、鳩と唐草と二つ別々の触図が用意されていました。
まずは鳩の触図。
線描のみで描かれた鳩と、色が塗られた鳩。最初は何が描かれているかよくわからず、先生から「鳥」というヒントをもらいました。そうすると嘴、眼、足、しっぽなどが見えてくるようです。気づいたことを自由に発言しあい、お互いの言葉に耳を傾けながら鑑賞を進めていきます。
次は唐草模様。ぽっかりとあいた二つの空間のところに鳩が入ることがわかってきました。そして唐草模様を辿りながら、ベン・シャーン独特の線描を感じていきました。
今回の触図に文字は入っていませんでしたので、先生が内容を日本語訳にして朗読して下さいました。
見よ、兄弟が共に座っている。
なんという恵み、なんとういう喜び。
・・・・
そして、ベン・シャーン(1898-1969)という画家について、この絵の描かれた時代背景が説明されました。
旧ロシア帝国内だった現・リトアニアのユダヤ人家庭に生まれたシャーンは、20世紀初頭、ロシアの迫害を逃れて家族でアメリカに移住。貧しい中、リトグラフの工房で働きながら絵を学び、常に社会に厳しい視線を投げかけ、人々の慎ましい暮らしを暖かく見守った作家でした。1960年代初頭は、国外では冷戦が緊迫し、国内では公民権運動が盛り上がった時代でした。そういうことを知ってあらためて作品を鑑賞すると、もっといろいろなものが作品から感じ取れるようになります。
触図による鑑賞を一旦終え、版画のプレス機がある部屋に移動。今度は作品を技法の点から見てみます。
リトグラフの原版(アルミ板)とシャーンも使ったアルシュ紙、そしてリトグラフのプレス機を触ってみました。
みなさん、プレス機の大きさにびっくりされていました。
そして実際の作品の前で鑑賞するために常設展示室に移動です。
天井の高いエントランスホール、常設展の第一室、第二室と歩き、やっとシャーンの作品がある第三室に到着。
今まで得た情報と、今度は作品を目の前に、先生や介添えの方の言葉を手がかりにしてより深く鑑賞を進めていきました。みんなで会話しながら、感想を述べながら想像を膨らませていく作業は、私たちにとってもとても楽しいものでした。
《詩篇133篇》だけでなく《ラッキードラゴン》も鑑賞。
再び講義室に戻って、みなさんにひとことずつ感想を言っていただきました。
触図を使っての鑑賞が初めての方が多かったので、それが意外と難しいこと。でも言葉を媒介にしたサポートがあるとだんだんとわかってくること。こういう美術鑑賞の機会をまた作って欲しいという要望も出ました。「目が見えなくても美術鑑賞はできる。」見えないからこそ想像し、鑑賞が膨らむこともある、という感想には私もハッとしました。
午前、午後、みなさん堪能され、また美術館に来てみたいと感じていただけたのは本当に嬉しい限りです。有り難うございました。
そして真下弥生さん、半田こづえさんをはじめ、ご協力いただきました福島県点字図書館、福島県立盲学校、そして福島県立美術館協力会に心からお礼申し上げます。
A.Y.