親と子の美術教室「紙で作る夢の家―私がハウスプランナーだったら」


内容:こんな家に住みたい!こんな街に暮らしたい!・・そんな思いを込めた私だけの夢の家を、親子で建築家やハウスプランナーになったつもりで作ります。
日時:2010年5月5日(水)10:00~15:00
対象:小学生の親子10組程度
講師:三浦浩喜氏(福島大学人間発達文化学類教授)

 立方体、円筒、四角錘、などの基本形体を建物に見立てて、どのような機能をもたせるかを想像し、それらをあれこれ組み合わせながら家を作っていこうということで制作が進められた。
 制作に先立ってハサミ、カッター、千枚通し、木工用ボンド、ホットボンド、スティックのりなど使用する用具の説明がされた。
 次にこれらの用具の正しい使い方として、定規とカッターを用いた紙の切り方、紙を正確に折るための千枚通しを使った折れ線のつけ方、紙の接着の仕方(ボンドでくっつけたところを指で10秒しっかりと押さえ、手の熱でボンドの水分を飛ばして接着する)など、ペーパークラフトに欠かせない基本的な技術、留意点が示された。

   

 制作は以下の手順で行われた。
(1)予め基本立体形の展開図を印刷した厚紙を正確にカットし立体にする作業を行う。
(2)切った展開図を組み立てる前に窓の部分になるところをカットし、透明ビニールシートや、蛍光カラーの色紙を貼るなどして、基本立体を建物や部屋のイメージに少しずつ近づけていく。窓以外の建物の色はサインペンで塗ったり、色紙を貼って表現する。
(3)できた様々な基本立体からなるパーツをあれこれ試行錯誤して組み合わせてみながら、全体にまとめていく。
(4)樹木など、アクセントとなるパーツは、発泡スチロールを樹木の塊に切り取り、工作用絵の具で着色し、つまよう枝をさして作ったものを配置する。

  

 出来上がった受講者の作品は、暗くした部屋に並べ、ブラックライトを当てた瞬間、受講者から歓声が上がる。建物に貼った蛍光色の色紙等がブラックライトの紫外線に反応して光り、街の夜景となって浮かび上がったからである。最後に人工的な美しい夜の景色をしばし眺めて、それぞれカメラに撮影して終わった。(久慈伸一)
実技講座「裸婦を描く」


内容:裸婦のモデルをモチーフに油彩(またはアクリルでも可)でF15号(65.2×53.0cm)のキャンバスに描きます。
日時:2010年5月30日(日)、6月6日(日)、13日(日)、20日(日)
   いずれも13:30~16:30、4回連続
対象:一般12名程度
講師:北折整氏(東北生活文化大学生活美術科教授)

 はじめにルノワール、パスキン、ゴーギャン、アングル、ルネッサンス期の画家などの画集を、それぞれの画家が裸婦をどのような観点で描いているかということに注目しながら鑑賞した。一口に裸婦といっても描かれた時代背景はもちろん、物語性や日常性の有無、理想化しているか否かなど、一枚の絵に込められた画家の様々な観点や、思いの違いが込められていることが話された。
 次に、対象を把握するために10分毎に変わるモデルの様々なポーズを計40分クロッキーした。その後、ポーズを固定して、20分毎のポーズを3回、計60分描いた。はじめからキャンバスに描いたり、まずは、スケッチブックにデッサンするなど、各人の自由なアプローチで制作に入って一回目を終えた。
 二回目および三回目は、それぞれ20分ポーズを6回、途中各回の間に10分の休憩をはさんで、計120分見ながら制作をすすめた。

  
   

 最終回は20分ポーズを4回見ながら制作したあと、全員の作品を並べて合評会をおこなった。合評会は一人一人自作についてコメントを述べたあと講師が講評しながら進められた。写実的に描いた人、デフォルメした線だけで描いた人、油彩、パステル、アクリルなど、作風も手法もバリエーションに富んでおり、作品に即した講評の内容も、プロポーションの把握、コントラストを強めた色彩と微妙な色合いの色彩の問題、バックの処理の仕方、油絵の具の重ね方など、絵画制作に関する具体的な様々な事柄に及んだ。
 さらに講評の場のように多数の人の作品が並べられると自分の作品が弱く見えると思ったりしがちであるが、アプローチの違いの問題としてあまり気にすることはないといったような、作品の評価や創作に関わる心構えの問題など、創作を楽しみながら継続するための丁寧なアドバイスも交えて終了した。(久慈伸一)
一日創作教室「超軽量紙粘土で作る~彫刻のスピードレシピ」


内容:軽く、乾きが速い超軽量紙粘土は、即興的に作った形を生かして短時間で彫刻を作るのに適した素材です。金網や発泡スチロールを心材にすると大きな造形も可能です。テーマは人間、動物、仮面、その他自由に、重力をちょっとだけ振り払った気ままな創作を楽しみます。
日時:2010年7月18日(日) 10:00~16:00
対象:高校生から一般まで12名程度
講師:久慈伸一(当館主任学芸員)

 従来から使われている創作体験用の油粘土や本格的な彫塑用の粘土は、タッチを生かした造形に適している反面、作品の保存に難があり、粘土自体重く、大きな作品を作る場合、頑丈な心材を要するなど、使用上の制約が多い。
 市販されて日の浅い超軽量紙粘土は、成形が容易で、従来の紙粘土の半分以下の重さで、心材も発泡スチロール、アルミの針金、金網等様々なものを使用でき、あまり頑丈なものを必要としない。使ったのは、パジコ社製のアーチスタソフトという粘土で、重さ200gで17.5×10×3cm=612.5cm3の体積があり、一辺約8.5cmの立方体を作れる量がある。比重は約0.3で乾燥させなくても、そのままで水に浮く軽さだ。
 薄くシート状に延ばし、花びらのような形も簡単にできるなど、マニュアルに従った工芸的な仕上げにも適している。
 しかし、粘土という自由で開放感のある素材を扱うのに、マニュアル的使用がある種の窮屈さをもたらすことを危惧し、従来の粘土で苦労するところを、少し楽にできるという体験を通じて、新たに創作のツールに加えてほしいという願いから、粘土をいじり、試行錯誤する過程を味わうというスタイル?で進められた。

    

 はじめに、美術館エントランスホールの、マリーニ、グレコ、佐藤忠良の彫刻および前庭の井上武吉、レジェの彫刻の造形上のアイディアのポイントを解説してから制作に入った。
 制作で配慮すべき事は、制作にかける時間に応じた方法や手順を考えることだ。一気に成形する場合、芯をしっかり作れば、あとは乾燥を待つだけでよい。軽量粘土とはいえ、芯には、乾燥する前に粘土の重さで変形しない強度が必要だ。一方、乾燥させながら段階的にモデリングを進める場合、はじめに着けた粘土が乾燥し強度を増すため、粘土をつける時点で型くずれしない程度の強さの芯で間に合う場合が多い。粘土自体の重さが制作を左右する要因となることを改めて意識する点だ。
 受講者は細部にこだわらず思うままに造形し、金網やアルミの針金などの心材は、必要に応じて用いるなど、それぞれ工夫しながら制作を進めた。初めて軽い粘土の使用感を体感した受講者からは、気軽にできる新たな創作の楽しみを見出したという声を聞くことができた。(久慈伸一)

    
技法講座「紙で作るポップなオブジェ」

安座上真紀子「バラのハイヒール」(撮影:谷崎春彦)

内容:様々な紙を使って、ティーポット、ハイヒール、夏の海辺のジオラマ、スノードーム(置物の一種)など日常をとりまくものを題材にした紙のオブジェを作ります。
日時:2010年8月28日(日) 13:30~16:30、8月29日(日) 10:00~15:30 *計2回
対象:一般15名程度
講師:安座上真紀子氏(造形作家)

 様々な色、厚さ、テクスチャーの異なる紙を使い分けながら、日常をとりまくものを題材にしたオブジェを作った。
 はじめに紙の製造過程でできる紙の繊維の方向のちがいで生じる紙の目を見分ける方法が示された。
 紙を軽く持って、しなりやすい方向としなりにくい方向のちがいで紙の目を見分ける。目の方向をどう活かすかで、できたものの、たわみかた、強度のちがいといったものが生じるため、目の方向を計算に入れることが大切だ。
 次に紙で球体状のかたちを作った。曲面からなる立体を表現するための基本的な方法として、約1:3の比率の長方形の紙の裏に両面テープを貼り、長辺の上下に切り込みを入れてから、テープのセパレーターをはがし、紙を筒状に貼り、切れ込みを内側に順に重ねて貼り付けて球状にする。このときの重ね方を工夫することで、さまざまなバリエーションの曲面を持った形状ができる。

   

 その他発泡スチロールの板に紙を貼り付けたスチレンボードを芯にして、両面テープで紙を貼り付けるなど、容易に立体を作り上げるために便利な方法や、細長い紙を爪でしごいてカールさせたり、薄い柔らかな紙で花びらを表現する方法など、基本から応用的なテクニックまでが示された。

 大切なことは、紙を扱う合理的で応用の利く基本的な方法をもとに、そのつど素材をどう扱うか、その方法を見つけ出す努力と工夫をすることである。ハウツー的なマニュアル通りにやるのではなく、表現の仕方をあれこれ考えることで、作品に思わぬエスプリが付与されるという恩恵にあずかることができるのではないだろうか。

 作品作りは、受講者が希望ごとにハイヒール、ティーポット、スノードームを作るテーブルに別れ、テーブル毎に作り方を説明しながら進められた。決まったモチーフであっても、使う紙の色、自由に組み合わせたりするなど、出来上がりはそれぞれの個性を反映したものになった。(久慈伸一)

   
親と子の美術教室「ビックリ工作連発大会」
 

内容:紙などで簡単に作れる珍しい工作をたくさん紹介します。
日時:2010年9月26日(日) 10:00~15:00
対象:小学生の親子10組程度
講師:芳賀哲氏(角田幼稚園園長)

 「○○なあに?」・・「早い!安い!うまい!」外食店のキャッチフレーズやらギャグ、駄洒落に乗ったシルエットの早当てクイズ。参加親子は笑ったり、時折ついてゆけず聞き流しながらも、「どうしてわかるのおー!」とのけぞりたくなるような鋭い答えが小学生から出てくる。そんな工作ショーを織り交ぜながら「ビックリ工作連発大会」は始まった。

    

 イントロの工作ショーで盛り上がり、まずは、ブーメランを作る。牛乳パックを短冊状に切ったもの2枚をホッチキスで十字形にとめ、角を落とし、4つの端を1センチ程度折り曲げてできあがり。スナップを効かして投げると、ちゃんと戻ってくる。
 次は牛乳パックとストローを使った「竹トンボ」作り。牛乳パックを短冊状に切り、模様付きテープで装飾、さらにプロペラ型に切り二つに折って羽根にする。根元を切り込みを入れたストローに挟み、ホッチキスでとめ、羽根を45度の角度に折って出来上がり。竹とんぼは芳賀さんが18年かけて進化させた思い入れの強いレシピ、上下反対にしても飛ぶ。
 その次は投げやり作り。ストローを二本連結し、胴体の先にクリップとティッシュを丸めたものをつけ、反対側に矢羽根と金のテープをつけて出来上がり。名前のとおり投げて遊ぶ。午前の最後は表と裏各面に12個の数字を0の字形に配置した紙パズル。表裏を折って4つの数字を組み合わせて遊ぶ。

   

 午後は、さらに四つの工作。最初は「フリスビー」。厚紙に色紙を貼り、表に絵を描いて出来上がり。
 二つ目は牛乳パックで作る「ペープサート」。牛乳パックに幅1.3cmの切れ目を入れ15枚程度の短冊の連なりにして筒状に丸める。真ん中に表裏に絵を描いたカードをホッチキスでとめ、上端に糸をつけ、割り箸の先に接着して出来上がり。回転させると、アニメの原理で表と裏の図柄が動くように見える。
 三つ目は「こま」作り。牛乳パックで作った4枚の短冊を二つに折って井桁に組み合わせ、真ん中にストローの軸を通してできあがり。
 最後は「シンバル人形」作り。紙の折り方を工夫し、組み合わせたストローを動かして手にしたシンバルを叩く動きを出す。
 簡単に作れて、遊びの中で活きる気取りのないおもちゃ作りを目いっぱい楽しんだ一日だった。(久慈伸一)

   
実技講座「失われた画術-エンカウスティーク:ミイラ達の絵画技法」
赤木範陸 作「狐に似た女性」

ファイユームで発見された布や板に描かれたミイラの肖像

内容:エンカウスティークとは、古代ローマからエジプトに伝承された2,000年前の絵画技法です。エジプト人達はこの技法で生前に描かせた肖像画を、故人の棺に貼り付けて埋葬していました。エンカウスティークは蜜蝋を熱く熱して描く技法ですが、この講座では、それを改良した技法で身近な静物等をF6~8号程度のパネルに描きます。
日時:2010年10月9日(土)、10日(日)、16日(土)、17日(日) *4回連続
   土曜日13:30~16:30、日曜日10:00~15:30
対象:一般12程度
講師:赤木範陸氏(横浜国立大学教育人間科学部准教授)

 エジプトのファイユーム地方に出土したミイラの棺の蓋の顔にあたる部分に貼り付けられていた肖像画は、描かれた2,000年前の状態をほぼ保存していた。これは肖像画を描くのに用いたエンカウスティーク(Enkaustik:ドイツ語)と呼ばれる絵画技法が酸化や紫外線の影響による化学変化、虫食い等に強い蜜蝋を材料としていたことによる。

 この技法は本来、熱で溶かした蜜蝋に顔料を混ぜて作った絵の具を、加熱して溶かしながら描くというもので、後に蜜蝋にアルカリを混ぜるなど、描画性を高める改良が加えられていった。しかし、聖像破壊など歴史の変転の中で技術の伝承が途絶え、古文献のわずかな記載で知られる状態にあったという。

 講座初日、スライドを使ってミイラの生前に描かれた写実的な肖像画が紹介された。それらは当時の中産階級を描いたとされ、死後、来世での再生復活を祈願するというエジプトの信仰とローマの肖像画の伝統の混交を示して、時空を超えた生命感を伝えていた。

     

 講義に続いて制作は、以下のとおりの行程で進められた。

(1)キャンバス作り:F8号の木製パネルに兎膠液を塗り、目止め処理をして乾燥させた後、パネルに再度膠をぬり、中目の麻の生キャンバスを接着させ、端をパネルの裏側に折り返しガンタッカーでとめる。

(2)下地塗り:ワックスエマルジョン(蜜蝋乳濁液:お湯に蜜蝋と炭酸アンモニウムを混ぜて作り、水溶性の性質を持つ)に白色の顔料チタニウムホワイト等を少量と増量剤の体質顔料・炭酸カルシウムを混ぜたものを地塗り材としてキャンバスに塗る。

(3)下絵描き:地塗りしたキャンバスに鉛筆や木炭で下絵を描く。

(4)絵の具作りおよび描画:顔料に水を加えて練り、ワックスエマルジョンを混ぜて作った絵の具で描く。乾いたら、アイロンの熱でワックスエマルジョンの水分を飛ばし、顔料を蜜蝋そのものの中に溶け込ませて定着させる。以下この行程を繰り返して描き進める。

 この技法の絵の具をキャンバスの目に浸透させるように定着して得られるマチエールは他の絵画技法にはない独特のものである。可能な表現の幅は意外に広く、ワックスエマルジョンと顔料の配合を変えることで、油彩に例えると、いわゆる西洋古典絵画の透明技法から印象派以降の不透明技法まで幅のある表現効果を作り出すことができる。最後の合評会で、受講者のバラエティーに富んだ作品一点一点に講師のコメントを加えて講座を終えた。(久慈伸一)

   
   
実技講座「木彫で作る身近な生き物」


内容:身近にいる陸や海に棲む生き物を、やわらかい木材を使って20cm前後の大きさに作ります。のみと木槌で形作り、細かな部分は彫刻刀で彫り出したり、ボンドを使って寄木にしていきます。
日時:2010年10月30日(土)、31日(日)、11月7日(日)、14日(日)、21日(日)、28日(日) *6回連続
   10月30日のみ13:00~16:30、その他は10:00~15:30
対象:一般10名程度
講師:新井浩氏(福島大学人間発達文化学類教授)

 身近な生き物をモチーフに、材木の形状、木目の方向で生じる強度の違いを考慮して彫刻のアイディアを練り上げ、面の組み立て、立体の凹凸など彫刻における造形性を意識しながら、以下の手順で制作を進めた。

(1)下絵の描画
 アイディアスケッチをもとに素材の米ヒバ材(12cm角、長さ25cm)に正面図・側面図・立面図を描く。このとき、正面・側面・立面が互いに一致するよう、座標となる補助線も描き入れる。材に描いた下図は後の工程で繰り返し使うため紙にコピーしておく。

(2)荒取り
 木材を木工用の万力で固定し、のこぎりで材の各面毎に必要な深さの切れ目を入れ、のみで余分な部分をカットし、四角形から八角形といった具合に荒い角を徐々に落としながら大まかな形態を作り出す。

    

 3)細部への彫りすすめ
 大まかな形体が現れてきたら、動物の体形を特徴づける肢の幅、顔の特徴を表す鼻や額の凹凸など各部のプロポーションに注意し、塊、面の構造、凹凸のコントラスト、動勢感を意識して細部を形作ってゆく。かたちを決める際、材の一番高い部分を高原に、その他ポイントとなる点を繋ぐ線を稜線になぞらえ、山を造形する意識で行うとやりやすい。彫りすすめる時には、下図をもとに、正面・側面・立面の輪郭線を常に補いながら行う。また、のみを入れる時は木材の繊維をきれいにカットできる順目と、繊維にのみの刃が引っ掛かってうまく彫れない逆目を識別しながら行うことが肝腎である。

(4)仕上げ
 細部の形が出来てきたら、のみの彫り跡を残すか、あるいはなめらかな表面にするかなどの表現効果を意識しながら慎重にすすめて完成させる。台座等も作った場合は像とのバランスを見ながら取り付ける。

 以上の工程で、ほぼ完成させたところで講座を終えた。あまり抵抗無く造形できる粘土の制作と異なり、細部を大まかな形に要約したり、のみや彫刻刀の彫り跡を残すなど、木彫ならではの造形的特質を生かすことをねらった本格的な制作であった。(久慈伸一)

    
一日創作教室「スクラッチボードによる表現」


内容:子供の頃、地面に木の枝や釘で描いたように、傷をつけ痕跡を印す行為には、描くことの本源を窺わせるものがあります。厚紙に白色塗料を塗り、黒く表面処理したスクラッチボードを針等でスクラッチ(引っ掻く)して、白と黒の幅広い表現の可能性を試みます。(画面30.5×22.9cm)
日時:2010年12月12日(日) 10:00~16:00
対象:一般15名程度
講師:久慈伸一(当館主任学芸員)

 適度に硬い白の地塗りを覆う漆黒の画面を、鋭利な針で引っ掻いて白と黒のコントラストを作り出すスクラッチボードの表現。その制作過程は闇のヴェールを切り裂いて隠れた光を導く感覚にも例えられようか。紙に描く普通のデッサンとは趣を異にするイメージの出現を楽しむことができる。
 制作に先立って、常設展示室の萬鉄五郎の油彩、国吉康雄のリトグラフ、日和崎尊夫、柄澤齋の木口木版などモノクロ表現の作品を鑑賞して参考にした。
 下絵なしで直接スクラッチしても構わないが、初めての人には全体のバランスを見てプレッシャーなく制作するため、下絵を描き、スクラッチボードにチャコールペーパーをのせ、下絵の線を鉛筆やボールペンで上からなぞり転写する。
 描画はスクラッチボードの線描用スクレイパーペンの太いものと細いもの2本で行なった。筆圧の強弱や、描画スピードをコントロールして白黒の対比に運動感、リズム感、アクセントを付加することができる。白黒表現そのものの可能性を追求できる画材と捉え、修正や描き直しは当然のこと、制約のないアプローチをして、スクレイパーペンによる一般的なテクニックのほか、紙やすりを用いてぼかしを表現する方法や、ルーター(工芸用小型ドリル)を用いて手描きでは制御不能な線を表現する方法も紹介した。

   

 この教室では技術的なこと以上にスクラッチボードの表現を通して、「絵画は、いかなる表現で、どのような可能性があるか」という問いへの手応えある答えを意識しながら制作することに真の目標があった。
 絵画は絵手紙のように絵をとりまく物事の背景、出来事への様々な思念を拠り所に描かれる。色彩、マチエール、空間の構成、文字の付与など、あらゆる視覚要素を使用可能な自由な媒体である。自由度の高い世界をコントロールしどんなコミュニケーションのかたちに作るかが悩むところだ。
 スクラッチボードは白と黒というシンプルな要素の対比で絵画空間が形成され、白と黒の線が綾なすパターンの無限の対比が可能となる。白と黒という制約された要素の関係性を追及しながら、絵画空間を意識的に構築するのに適した表現素材なのである。(久慈伸一)

   
親と子の美術教室「金属でつくるX'masキャンドルスタンド」
 

内容:暖かみのある銀色に輝く金属:錫(スズ)を熱して柔らかくしたり、たたいて曲げたりのばしたり、鏡の様にピカピカに磨いたり‥素材の特性や美しい表情を活かして小作品をつくります。完成後にロウソクを灯してみんなで鑑賞しよう!
日時:2010年12月23日(木・祝) 10:00~16:00
対象:小学生の親子10組程度
講師:佐々木里恵氏(金工作家、「空工房」主宰)

 スズは銀に似た美しさからヨーロッパでは食器に、日本でも茶筒などに用いられてきた。鉄板にスズをメッキしたブリキ製の缶詰缶、ハンダ付けで使うスズと鉛の合金ハンダ、銅像に用いる銅とスズの合金青銅など、スズは実用的で意外と身近にある金属だ。融点が232℃と低く、柔らかく、光沢が美しいことから誰でも鋳造や鍛造の過程を容易に体験するのに手ごろで魅力のある素材でもある。
 この教室では以下の手順でキャンドルスタンドを制作した。

1.スズの地金を溶かして材料を作る行程

(1)電熱器に鍋をかけ、スズの地金150~200gとフラックスを少量入れさらにバーナーで熱して溶かす。(フラックスはスズの表面にできる酸化皮膜を取り除き地金の表面の光沢が失われないようにする働きがある。熱して出るフラックスの蒸気を吸わないようにマスクして十分換気する。)

(2)水気をすっかり取り除いたフライパンを耐火煉瓦の上において、溶かしたスズを流し込む(フライパンに水気があると、熱して溶けたスズを流し込んだ時、跳ねて飛び散る危険があるので注意する)。少し時間をおいて作りたい形に近い形で固まったら、水の中に入れて冷ます。

    

2.材料の打ち出し成形と完成

(1)できたスズの材料を木製の台や金床の上にのせ、金鎚や朱木鎚で叩いてキャンドルスタンドの形に打ち出していく。

(2)形が出来たら表面に鎚跡をのこしたり、真鍮の棒やヤスリで磨いたり、鉄製の刻印を打つなど、好みの仕上げの状態に成形していく。

(3)スタンドの皿の部分が出来たら、ハンドドリルでロウソク立ての位置に穴を空け真鍮の釘を真っ直ぐに通してハンダで接着して完成。

    

3.ロウソク作りと鑑賞

 スタンドを完成した後、用意したロウソクにさらに何色もの溶かしたロウをデコレーションしてキャンドルを作り、キャンドルスタンドに灯して美術館のエントランスホールで鑑賞し、記念に撮影して終えた。
 庭で焚火などする環境が少なく、キッチンも電子レンジなどが普及するなど、金属を加工できるような強い火力を扱う機会のない昨今、貴重な経験であったと思う。(久慈伸一)

   
親子で安心・手作りアート教室「糸のこで作る木のおもちゃ」
 

内容:サルにバナナ、楽器に音符など、関連性のあるものを組み合わせ、釣りゲームして遊べる木のおもちゃを電動糸のこを使って作ります。
日時:2011年2月6日(日) 10:00~15:00
対象:小学生の親子8組程度
講師:中井秀樹氏(木のおもちゃ作家)

     

 木のおもちゃを以下の手順で制作した。

1.アイデアと下絵の作成
 (1)形を切り抜いて使う12cm角・厚さ12mmのブナ材の合板と8.5cm角厚さ8mmの合板を方眼トレーシングペーパーの上において周囲を鉛筆でなぞり枠を作る。
 (2)アイデアスケッチして案が決まったらトレーシングペーパーの枠内にアイデアスケッチをもとに下絵を描く。
 (3)下絵が完成したら、枠に沿ってハサミで切って板にスプレー・ボンド(55番:粘着力を表す数字)で貼り付ける。このとき、板の木目の方向で強度が異なるので方向を考える必要がある。今回の場合使用したのが合板なので強度もさることながら板の木目の模様や色が仕上がりに関系するので、その点を注意する。

2.穴あけと糸のこによる材の加工
 (1)くり貫く形を切り出す場合は糸のこの刃を通すための穴を板に直径2mmのドリルで空ける。
 (2)糸のこの刃を通して下絵の線に沿って板を切断する。糸のこの刃は24山かえし刃付きを使用。

3.切削面の研磨
 240番のサンドペーパーで研磨しなめらかにする。

4.釣り糸につける餌の部分の加工
 (1)餌になる部分にたこ糸を通したとき水平を保つように、たこ糸を通す重心を見つけるために、縫い針に糸を通し、針を板に軽く刺して持ち上げて見ながら探す。
 (2)見つけた重心にドリルで穴を空け、タコ糸を通し丸棒に結びつける。このときタコ糸の結び目の玉が収まるように太めのドリルで餌の穴の下面に窪みを作る。

5.本体の板の部材を木工用ボンドで接着して完成。
 受講者はおもちゃの基本的な原理を踏まえ、じっくりとアイデアを練ってユニークな作品を制作した。(久慈伸一)

   
   

※「親子で安心・手作りアート教室」は一連の美術館の継続的な創作プログラムと異なり、2010年度のみ2回開催しました。
親子で安心・手作りアート教室「七宝でつくるアートな動物」
 春田幸彦作「収集家の鱗粉」

内容:七宝(しっぽう)は、色とりどりのガラスの粉を銅など金属の板に付着させ、高温の炉で焼いて作ります。炉の中でガラスの粉は溶け、取り出して固まると宝石のような輝きが出ます。七宝でいろいろな動物を親子で作って楽しみます。
日時:2011年3月6日(日) 10:00~15:00
対象:小学生の親子8組程度
講師:春田幸彦氏(七宝彫金造形作家)

   <作例>

 七宝の歴史は古く、ツタンカーメンの黄金のマスクの装飾など古代エジプトやメソポタミアに起源を持ち、ヨーロッパ、シルクロード、中国、朝鮮を経由して仏教とともに日本に伝わったとされる。中国ではホーロー、日本では仏教経典にある七つの宝にちなんだ七宝の名称がある。
 七宝で使う銅板には不透明釉が生える赤味を帯びた純銅、透明釉が生える黄味を帯びた丹銅(真鍮が混ざった銅板)があり、表現によって使い分ける。
 制作は以下の行程ですすめられた。

    
    

(1)9.0×6.5×厚さ0.5cmの銅板の大きさの紙に下絵を描き、輪郭に沿ってはさみで切る。
(2)銅板の上に下絵をおき、輪郭を油性のフェルトペンでなぞり銅板に写す。
(3)輪郭を金切ばさみで切り、ヤスリがけしてふちを滑らかにする。
(4)立体的にする場合は銅板をペンチなどで折り曲げたり木鎚で叩いて打ち出す。
(5)作品の裏側にC.M.Cのり剤を塗り、黒の釉薬を茶漉しに入れてふりかけ、さらにC.M.Cのり剤をスプレーで噴霧し銅板に付着させる。
(6)表面にC.M.Cのり剤を塗り、デザインに沿って釉薬を盛る。
(7)七宝窯の上で5分以上乾燥させ、作品が網にくっつかないように網の上に酸化アルミナのはく離紙をしき、作品をのせ窯に入れて2~3分程度焼く。
(8)釉薬が溶けているか確認して窯から出し、耐熱板の上に置いて冷ます。
(9)冷えたら、金工用のやすりでかたちを整えて出来上がり。

 砂粒のような釉薬が予想しがたいガラス質の輝きを得て窯から取り出されるのを見て一喜一憂しながら、素朴な手作り感に、思いがけない深い味わいが加わる七宝の制作を楽しんだ一日だった。(久慈伸一)

    
     

※「親子で安心・手作りアート教室」は一連の美術館の継続的な創作プログラムと異なり、2010年度のみ2回開催しました。
わんぱくミュージアム「ラッキードラゴンとトらやんの夏休み」


内容:ヤノベケンジの絵本「ラッキードラゴンのおはなし」の朗読を聞き、オリジナルのミニ・ラッキードラゴン船を作ります。完成したら美術館の前庭の池に浮かべて遊ぼう!
日時:2010年8月6日(金) 13:30~16:00
対象:小学生以上33名
講師:橋本淳也(当館主任学芸員)、福島大学学生ボランティア

 7月17日~8月29日に開催された企画展『胸さわぎの夏休み』の出品作家:ヤノベケンジに関連したワークショップ。ヤノベ作の絵本《ラッキードラゴンのおはなし》の投影を見ながら朗読を聞いた後、展示室でヤノベ作品《ラッキードラゴン》のインスタレーションを鑑賞した。ヤノベの《ラッキードラゴン》は船として制作され、「水都大阪2009」では、大阪湾など海や川を疾走していた事を紹介してから制作をはじめた。

   

 自分だけのミニ・ラッキードラゴンの姿を想像し、その横向きの角度を200×200×30mmの発泡スチロールボードに直に鉛筆でスケッチし、スチロールカッターでシルエットをなぞるように切り抜いた。これを芯材にして、白い軽量粘土を盛りつけながら顔や牙、角、ウロコなどをつけていき、ヒゲや細かなパーツは針金なども使って造形した。
 プラスチック製の船体に仮止めし、船底に水中モーター を取り付けた。水を張ったボールに浮かべてバランスを確認してからホットグル―で固定。倒れてしまう場合には、発泡スチロール製のフローターを船体の左右両脇に取りつけた。

   

 粘土の乾燥を待つ間、美術館エントランスホールでヤノベ作品《ジャイアント・トらやん》を鑑賞した。子供達の「トらや~ん!」の掛け声に呼応して《ジャイアント・トらやん》が両手を交互に振りながら火を噴くパフォーマンスを行った。その強烈な迫力には、ただただ圧倒されるばかりだった。

   

 最後に完成した作品を持って美術館前庭にある人工池に移動。子供達は靴を脱ぎ、ズボンの裾をまくり上げて池に入り、自分のつくったミニ・ラッキードラゴン船のモーターのスイッチを入れて浮かべて水上を疾走させて遊んだ。夢中になるあまり、いつの間にか泳ぎだしてしまう子供もいた。
 猛暑の中、子供達の歓声と笑顔がいっぱいの平和なひとときを満喫できた夏休みの一日になった。(橋本淳也)
わんぱくミュージアム「アートな水族館~夢の魚をつくろう!」


内容:移動水族館で水の生き物を見た後、発泡スチロールなどを使って自分だけの夢の魚をつくります。完成したら美術館のホールに展示して《アートな水族館》をつくろう!
日時:2010年11月20日(土) 10:00~14:00
対象:小学生21名
講師:橋本淳也(当館主任学芸員)、福島大学学生ボランティア

   

 はじめに、アクアマリンふくしまの移動水族館:アクアラバンで、カラフルな熱帯魚を見たり、タッチプールで小さなおとなしいサメやヒトデやイセエビ、ナマコなどに触って、水にすむ生き物に親しんだ。
 美術館エントランスホールで制作開始。「あなたの考える夢の魚は(1)どこに住んでいるか?(2)何を食べるか?(3)性格は?(4)大きさは?(5)形は?(6)色や模様は? 」などの質問に言葉を書いてイメージをふくらませた。

   

 つぎに、夢の魚をA2ケント紙に鉛筆でスケッチし輪郭線をハサミで丁寧に切り抜いた。切り取ったスケッチの裏側に木工用ボンドをローラーで均一に塗って12mmの発泡スチロールボードに貼りつけ、スチロールカッターで切り抜いた。

   

 アクリル絵の具を筆やスポンジにつけて思い思いの色や模様に彩色。スチロール片やスポンジボールなどを貼りつけてヒレなどをつけたり、虹色に縞模様を塗り分けたり、ドット模様をシールで貼りつけたり、それぞれ工夫して表現した。

 完成後「夢の魚」に名前をつけて、巨大水槽に見たてた美術館ホールの壁面に展示し、みんなで「アートな水族館」をつくった。「宇宙にすんでいて星を食べる魚」や「心の中にすんでいて人の不安や悩みを食べてくれる魚」など、色とりどりの21匹の「夢の魚」たちが元気に泳ぐ「アートな水族館」が完成した。(橋本淳也)

※この実技教室は、県内3館連携事業として11月20日~12月5日の期間、県立美術館・図書館の前庭に、アクアマリンふくしま主催《小名浜大漁旗国際デザイン展》入選作57点を飾った展示の関連企画の一つである。
 期間中の週末には、アクアマリンふくしま「移動水族館:アクアラバン」の公開、図書館では「移動図書館:あづま号」の公開、「関連図書の紹介」、「おはなし会」と、3館の特色を活かした子供向けイベントが開催された。