親と子の美術教室「親子で絵本を作ろう!」
 

内容:背にカラー段ボールを使って製本したものに、いろいろな技法で描いて、親子で楽しい絵本を作ります。
日時:2012年5月5日(土) 10:30~15:30
対象:小学生の親子10組程度
講師:内田由紀子氏(製本家、池袋コミュニティ・カレッジ講師)

 午前中、下記の材料と手順に従って、親子で協力しながら簡易な製本をおこなった。

●材料:本文紙(GAケナフ130kg)
    見返し(マーメイド115kg)
    背中(カラー段ボール)
    表紙(カラーイラストボード1.5mm厚)
    その他(寒冷紗、麻布)      

●簡易な製本の手順
 1. 見返し(19.5×35cm)を軽く2つに折り、幅40mmの寒冷紗を貼る
 2. 本文紙の中央に鉛筆で線をひき、点をつける(上から7mm、以下20mm間隔)
 3. 見返しを重ねクリップでとめて目打ちで穴をあける
 4. 鉛筆の線を消して、糸でかがる
 5. 二つ折りにして強くおさえ、紙で巻く
 6. 小口を切る(175mm)
 7. 巻いた紙をはずして広げ、背の綴じ糸の両側に線をひく(22.5mm)
 8. 段ボールを貼る
 9. 表紙(20×18cm)を貼る
 10. 表紙の余分な部分を切る(上下は2mm、左右は3mm)
 11. 定規を縫い目にあてて二つ折りにしておさえ、板の間にはさみ、その上に乗って体重をかけてプレスして完成

 午後からは絵本の中身を制作した。
 まず、読者を想定しながら全体の構想をページ毎に割り付けた。それに基づいてカラーペンや色鉛筆を使って描画するほか、紙を切り抜いた型紙の上から絵の具を塗るステンシルの技法やスタンプを押して図柄を作ったり、切り抜いた色紙や雑誌の切り抜きを貼りつけるなど様々な手法で中身を作り、表紙を仕上げて完成させた。(久慈伸一)

 ページ毎の全体の構想を書き出した。

 色鉛筆等による描画やスタンプを使って絵柄を作る。

  
  
  
技法講座「伝統木版の技法~現代版画に生きるわざ~」


内容:浮世絵特有の美しい墨の線や、和紙に染まる水彩絵の具のマチエール(画肌)を駆使した多色木版画の世界を体験します。絵の骨組みとなる墨線を主版に、色版を2版重ねて(B5判程度の)作品を作ります。
日時:2012年5月20日(日) 10:30~16:30
対象:高校生以上一般15名程度
講師:丸山浩司氏(多摩美術大学教授)

 ※本講座はCCGA現代グラフィックアートセンター(須賀川市)で開催中の「日本ポルトガル交流 版で発信する作家たち:after 3.11」展(2012年3月1日~6月3日)のPRを兼ねた講座として、講師のボランティアにより実現した。

はじめに葛飾北斎の代表作「神奈川沖浪裏」の復刻版画の、墨線を主版に色版を順番に重ねる工程の摺り見本を並べて、浮世絵木版の工程を概観した。



 余談ではあるがこの作品を横一列に並べると、連なる波動そのものとなって見えた。この作品が浪と富士をモチーフにした単なる風景ではなく、浪と富士の動と静といった相反する存在をコントラストの妙として添えながら、連続する波動そのものの一部をトリミングして斬新な構図を作り、波動のダイナミズムの本質そのものを表現しようとしたように思われる。傑作の秘密を目の当たりにした感があった。

続いて実際の制作に入る。講座では浮世絵版画など伝統的な多色木版画に用いられる主版法(おもはんほう:作品の骨格となる線や面の版をつくり、その版の刷りを使って各色の版を作る方法。)が紹介された。
 具体的には(1)主版法による版の作り方による製版に続き、(2)刷りのポイントに従った刷りの工程、さらに(3)刷りの効果として、代表的なものの実演等を交えて講座がすすめられた。
(以下(1)~(3)は丸山氏著:開隆堂美術資料『多色木版画をつくる:その1主版法』による)。

   

(1)主版法による版の作り方
(ア)線を主とした主版の下絵を描く。かぎ見当を左下、引きつけ見当を右下にかいておく。
(イ)下絵を裏返してはる。のりをむらなくつけ、手のひらでたたくようにしてから下絵をのせる。
(ウ)主版を彫る。見当は垂直に切り込みを入れて彫る。彫り終わったら水で下絵をはがし、サンドペーパーで仕上げる。
(エ)色版を作るために、主版を色版の数だけ薄手の和紙に刷っておく。これを「刷り返し」という。
(オ)色彩計画を立てる。色鉛筆や絵の具で刷り返しに色をおいてみる。
(カ)刷り返しを裏返して版木にのりではる。生乾きのときに紙の上層部をはがす。
(キ)各色版ごとに版にする必要な部分に赤のペンなどで印をつけておく。
(ク)色版を彫る。必要な部分の外側4~5cmを彫り取り、紙をはがして仕上げる。版の部分から離れた部分は彫りとる必要はないが、バレンをあてて刷るときに紙に跡が残らないようエッジに丸みをつけておく。
※見当(版を重ねて摺る時、版がずれないように一定の位置に刷り紙をおく印として、紙の角を会わせるL字型のかぎ見当、紙の長辺を会わせる一文字型の引きつけ見当)も各版ごとに彫っておく。

(2)刷りのポイント
(ア)和紙は腰の強い厚手のものを用意し、見当の当たる所をカッターで切っておく。
(イ)2枚の厚手のボール紙に水分をたっぷりと含ませ、その間に湿した和紙をおく。ビニールで包んで7~8時間放置しておく。
(ウ)版木に水性絵の具と水で溶いたのりも少量おく。刷毛でむらなくのばし、バレンでこする。
(エ)明るい色から刷っていく。
(オ)水張りして乾燥させる。

(3)刷りの効果
(ア)ぼかし刷り:版面の上部に、筆で一文字に絵の具を置き、下に水で溶いたのりをおいて刷毛で両者をなじませてぼかしをつくる。
(イ)重ね刷り
(ウ)薄墨のごま刷り(ごまを撒いたような、少しまだらになったような色面の効果が得られる)

 講座では浮世絵にみる伝統技法の紹介により、現代につながる木版多色刷りの基本を踏まえた制作がされた。講座の時間内では主版の刷りまでが中心となり、実際に色版を刷り重ねるところは、受講者各自がそれぞれ行うということで終了した。(久慈伸一)

 以下は受講者の制作途中、一版目の作品。

    
   
   
みる・つくる-アートdeつなぐ創作講座「シャーンと立つ私の姿」
   

内容:ベン・シャーンの作品を鑑賞して参考にしながら、4センチ角長さ1メートル程度の木の杭に自分の姿を木彫・彩色し、美術館の庭に立て鑑賞してみます。
日時:2012年6月9日(土)、10日(日)、16日(土)、17日(日)、23日(土)、24日(日)
   土曜日13:30~16:30、日曜日10:00~15:30
対象:高校生以上一般15名程度
講師:タノタイガ氏(現代美術家)

 ベン・シャーン展会期中の関連事業の講座として、福島の地に立てる自分の姿を角材に彫って、杭にし、中庭に立てて鑑賞してみようという“人間存在”に関わるような表現をテーマにした。タイトルは、2008年の「ドーミエ版画展」の会期中に開催した、自分の姿を木彫にする講座「私はどう見える?」と同様の精神で“ベン・シャーン”の“シャーン”と“しゃんと立つ”を洒落てみた。

 制作は以下の手順で進められた。
(1)参加者の顔をデジカメで正面と横顔を撮影し、材料の米松の角材の太さの寸法にプリントしたものをトレーシングペーパーをあて鉛筆で輪郭を写し下図を作った。腕などをつける人は予め継ぎ足す角材をボンドで接着しておく。
(2)下図をカーボン紙をあてて、米松の角材に写した。このとき正面図と側面図が一致するようにする。
(3)のこぎりを入れる線を定規で平行にひく。
(4)線に沿ってのこぎりを入れ、のみで余分な材をおとす。
(5)大まかな面を意識しながら、のみや彫刻刀で彫りすすめる。このとき下図をもとに、要所要所にデッサンを描き加えながら行なう。
(6)彫りあがったら、紙やすりで表面を整え、アクリル絵の具で彩色する。写真をもとに下絵を作り、それを木に写し、のこぎりで余分な材を切り落とす。

   彫り:荒彫りから仕げ彫りにすすむ

  着彩して完成

 以上の工程を経て完成した作品は、美術館の前庭の芝生に鉄製のペグを打ち込み、それにに針金で軽く巻きつけて固定して立て鑑賞し、記念撮影した。そのあとベン・シャーン展を鑑賞してから作品を撤去して講座を終えた。
 出来上がった作品にはユーモアと秘められたリアルな情感が漂い、様々な想念や情念が、呟きや声にならない声となってじわじわと伝わってくるようで、不思議な感動を覚えた。自分の姿を杭として地面に立てるというシンプルで即物的なアプローチが、木彫という根気のいる仕事を通して、身体を介した手ごたえのある表現をもたらしたと考える。(久慈伸一)

  美術館中庭に作品を設置して撮影

 ベン・シャーン展を鑑賞

   
   
  
一日創作教室「粘土で作るレリーフ絵画」


内容:合成紙粘土を使って人間や動物、日常の風景や文字その他様々なものをレリーフ(浮き彫り)にし、パネル(A4判程度)に貼り付け、好みにより絵の具等で彩色して立体的な絵画や看板を作ります。
日時:2012年7月29日(日) 10:00~16:00
対象:高校生以上一般12名程度
講師:久慈伸一(当館主任学芸員)

 レリーフを制作する場合、厚みをどうするかということが大きな問題となる。コインの厚みは実用的な厚みが重要で、金属の凹凸で表現した絵画とみなせる。
 彫刻のように実物に準じた厚みを持つものとコインのような必要最低限の厚みを持つものとの間に無数の厚みが存在し、どれくらいの厚みで作るかは、どのような見せ方をしたいかで決まってくる。一般的には彫刻に近い厚みは、物量的な存在感を強調し、コインのような絵画に近い厚みは、イメージを図像的に伝える。
 はじめに、ルーヴル展の会場に展示されている彫刻やレリーフについて、どのように鑑賞されることを想定して作られているか、ギリシャの「三美神」という同一モチーフの作品で、レリーフにした作品と彫刻にした作品を具体的に比較することで、レリーフ作品の厚みと背景の空間処理の関係や、彫刻にした場合の量塊性の強調の違いがどのような表現効果の違いとなっているかを子細に見ていった。

   

 制作は各自用意した下絵や写真をもとにアイディアを固めるところからはじまった。
 予めパーツを作ってからベニヤパネルに貼り付ける際はパネルに木工ボンドで接着し、また、粘土をパネルに直につける場合には、粘土自体には接着力があるが、しっかりと接着するよう、木工用ボンドを予めパネルに塗って行なった。
 制作は参加者それぞれの表現意図が少しづつ明確になっていくよう節目毎に作者の求めに応じて相談しながらすすめられた。
 粘土には着色せずに完成にしたり、粘土にビーズを貼り付けて上から水性のニスを塗って質感を出したり、アクリル絵の具を薄く塗って粘土の凹凸の表情を生かしたり、アクリル絵の具を厚塗りして色を強調するなど、それぞれの意図に従った様々な展開が見られた。(久慈伸一)

   
  
実技講座「テラコッタで作るヴィーナス」

内容:ルーヴル展の彫刻の鑑賞を交えて、モデルを見ながらテラコッタ(素焼き)用の粘土で高さ40cm程度の彫刻像を作ります。乾燥・焼成を経て、絵の具で着色して仕上げます。
日時:2012年9月9日(日)、15日(土) 10:00~16:00
   9月16日(日)、10月7日(土) 10:00~12:00 *4回連続
対象:一般12名程度
講師:新井 浩氏(彫刻家、福島大学人間発達文化学類教授)


新井浩氏作品

 第1日目、人体彫刻のプロポーションの例(ヨーロッパの8頭身、中国の6.5頭身)や美しい長方形の縦横比として有名な黄金比(1:(1+√5)/2)、法隆寺などの建築や人気キャラクターに見いだされる白銀比(1:√2)など、人体の美的な比率にまつわる話がされた。
 次にモデルを見ながら10分ポーズのクロッキーを2回した後、ポーズを決めて5分ごとにモデル台を回転しながら10:30~11:55まで制作。午後も同様に25分モデルを見て10分休憩を入れた制作をし、3回目からは20分と10分の休憩のパターンを4回行った。
 第2日目、ヨーロッパ彫刻の規範とされてきたギリシャ彫刻の黄金期とされるクラッシック期の彫刻に見られるS字カーブ、優美さと誇張、ヘレニズム期のミロのヴィーナスなどの話のほかテラコッタの彫刻制作において、粘土を付ける際に空気を押し出すようにしてつけていく注意点等が話された。
次いでモデルを見ながらの制作を、5分ごとにモデル台を4分の1ずつ回転させ、間に10分の休憩をまじえて9回行った。
 第3日目は、焼成の際に空気が膨張して破損するのを防止する下準備として、出来上がった粘土像を細い針金で、後頭部の部分と背中から足の近くまでの半身部分をカットし、内側の粘土をくり抜き、1mm程度の太さの針金を全体に刺して小さな空気抜きの穴を開けた。最後にドベ(粘土を泥状にしたもの)で接着し元のかたちに復元した。

      
粘土で制作し、背面を針金でカット。彫塑用かきべらで内部をくり抜く。

     
竹串や細い針金をさして、空気抜きの穴を開け、接着面にどべ(水でのり状に溶いた粘土)を塗って、元の状態に復元。

 このあと乾燥させ10月初旬に4日間100℃以下で窯に入れ完全に乾燥させた後、2日間かけて焼成。
 第4日目、10月7日に焼き上がったものに着色した。何らかの理由で欠けたりしたものは、エポキシ樹脂で接着し、固まった接着剤の表面にヤマトのりを塗り、その上から粉状にした粘土を焼成した粉末をその部文にかけて表面を整えた。

   
素焼きの状態。               着色

 着色は微妙な調子を出すため全体を水で濡らして水分を含ませてから、アクリル絵の具、ジェッソ、水彩絵の具、弁柄や彫塑用粘土を泥状にしたドベなどを塗り、布で拭き取りながら色の調子を作って完成させた。(久慈伸一)

    
    
   
技法講座「フレスコで顔を描く」

内容:ジョットーの壁画やミケランジェロがシスティーナ礼拝堂に描いた「天地創造」など、ルネッサンスのイタリアの教会の壁画として知られるフレスコ。生乾きの漆喰の壁に彩色する古典的壁画技法・フレスコで自分や家族、友人の顔を鏡や写真を用いてF6号(40.9×31.8cm)程度の画面に描きます。
日時:2012年10月13日(土)、14日(日) 10:00~16:30
対象:高校生以上一般12名程度
講師:森 敏美氏(東北生活文化大学生活美術学科教授)

 一日目は、はじめにフレスコの技法についての概説に続いて、描画の下準備としてパネル作りと漆喰作り、さらに漆喰の一層目の地塗りを行った。
 漆喰は主たる固化材である消石灰(水酸化ナトリウムと骨材である砂と水を混ぜて練って作る壁材である。漆喰は水酸化ナトリウムCa(OH)2と水H2O、空気中の二酸化炭素CO2が反応して炭酸カルシウム(石灰岩)CaCO3に変化して硬化する。漆喰が生乾きの状態で、水で溶いた顔料で描くと、炭酸カルシウム成分が硬化する過程で顔料が壁の表面に閉じ込められるかたちで定着する。いわば岩石の中に絵具が閉じ込められる状態なので、フレスコによる教会の壁画は建物が残る限り千年、二千年以上経っても殆ど色褪せることなく残っている。 
 技法の説明に続き、パネルづくりを行った。まずF6号サイズ油絵用木枠1組を組んだものにラス板(41.0×31.8×厚さ1.5cm)1枚を釘(ステンレスまたは真鍮、長さ2〜3cm程度)で打ち付ける。さらにそれを囲むように額縁としての側板(長辺用42.5×4.3×厚さ1.5cmを2枚、短辺用33.3×4.3×厚さ1.5cmを2枚)をラス板の表面から1〜1.5cm出るように釘で打ち付けて完成。

  
ラス板を油絵用木枠に釘で打ち付ける。側板を打ち付け完成。

   
袋から出した塊状の土佐漆喰に珪砂を混ぜ練り込む。

  
練った漆喰を鏝板に取り、鏝でパネルに塗る。

 次いで、漆喰作り。コンクリート用のプラ舟に高知県特産の土佐漆喰(石灰にわらの繊維が入っているのでクリームがかった色味をしている)に山形珪砂5号(普通の川砂をきれいに水洗いしたものでもよい)をほぼ同量混ぜて鍬で固めに練り込んでできあがり。
 続いて、練った漆喰を鏝板に取り、硬い鏝でパネルに一層目を塗り込み、本来であれば2層目の上塗りの上に描くのであるが、一層目に練習で描いてみた。下絵に線香で穴をあけ、漆喰の上において、布にローシェンナ-の顔料を入れたタンポで上からなぞり、顔料の粉を穴を通して漆喰の表面に落として下絵を写す。さらに顔料の粉がのった部分を面相筆に水をつけて線に描きおこし輪郭を決め、様々な顔料で描いていった。

   
デッサン。     線香でデッサンに沿って穴をあける。穴をあけたデッサン(左)と部分拡大図(右)

 
穴をあけたデッサンをフレスコの画面に置いて、ローシェンナーを入れたタンポで写した画面(左)と部分拡大図(右)

  
転写した輪郭をもとに水で溶いた顔料で描く。描きにくい細かい部分は手元が狂わないよう渡した板に腕を添えて描く。

 二日目は、本制作のため、昨日の一層目の上から、5mmの厚さの漆喰の層を2回塗り、昼食をはさんで、描画のタイミングを見ながら、12時40分頃から一日目と同じ要領で、描画を開始した。

  
練習で描いた上に漆喰を塗り重ねて本制作の準備。

 描画は、石灰の硬化の化学反応を見極め、限られた時間内で行わなければならない。水酸化ナトリウムと二酸化炭素と水が反応するタイミングをとらえ、水で溶いた顔料を筆で描いていく時の感覚を経験的につかむしかなく、フレスコの最もむずかしいところである。
 描画に際しては特に水分量の片寄りを招かないために、全体を平均的に描き進めていく必要がある。3時過ぎ頃まで制作し、それぞれの作品を講評して終えた。(久慈伸一)

 
出来上がった作品を並べて合評会。

   
   
  
みる・つくる-アートdeつなぐ創作講座「ドローイングの可能性~イメージのかけひき」

内容:モンドリアン、ポロック、リヒテンシュタイン、ベン・シャーンなど抽象的・記号的な作品をわかりやすく解説します。それらをヒントに、何種類かの描画材を使って様々な絵画的手法を体験しながら、表現の可能性を探ります。
日時:2012年10月27日(土)、28日(日)、11月3日(土)、4日(日) *4回連続
   土曜日13:30~16:30、日曜日10:00~15:30
対象:一般12名程度
講師:平林薫氏(造形作家、名古屋造形大学教授)

 当館で2005年に開催した実技講座「ドローイングの可能性~描くこと書くこと~」(6回連続)は、抽象美術の系譜の理解と制作を課題に、絵画の描画行為・記号性に着目して創作体験と鑑賞を通じて多面的に迫るものだった。
 前回、描画を主体としたのに対して、今回はコラージュと描画を主体に行った。また、講座期間中、画面の中に様々な文字や形象を用いて制作する当館所蔵のベン・シャーンの作品が常設に展示されることもあり、実物を参考にすることも考慮した。

1)第1日目
 1日目ははじめに受講者が様々な想念を払拭してリラックスして制作に集中できるよう、腕ならしとウォーミングアップを兼ねてA4判の紙に手の赴くまま鉛筆で線を描いてみた。その際、心身のコンデションを整えるため息を吸ったり吐いたり、呼吸に意識を集中して行なった。
 次いで各自描いたものを集めて見比べながら、「まとまり感」「平衡感覚」「枯れた線」など様々な言葉で感想を述べ合いながら、自分にあるもの、ないもの、先天的なもの、後天的なもの、両者が相まってでているもの、といった観点でお互いを比較し、描かれたものを通して自分の特性を推察する分析を試みた。
 次に用意したラワンベニヤの板(180×90cm厚さ4mmを予め三等分し90×45cmにしたもの)を一人1枚ずつ配り、それをカッターで各自適当な大きさに切断して紙やすりをかけて整え、制作の下準備をして1日目を終えた。

  ウォーミングアップを兼ねて自由に線を描き持ち寄って作者の特性を分析

 必要な大きさにベニヤ材を切る

2)第2日目
 午前は初日に準備した板の裏に角材の支持体をボンドで接着して補強したのち、制作に入った。
 和紙を貼った画面に雑誌や印刷物の写真やコピーしたものの切り抜き、布、紐などを貼りつけたり、ラワンベニヤの画面に木工用の水溶性パテを盛り上げてマチエールを作ったり、アクリル絵の具などで描画しながら制作をすすめた。
 午後は、プロジェクターで講師の文字を主体にした立体作品、コピーを駆使して制作したハスの花のイメージの作品やカンディンスキー、モンドリアン、デ・クーニング、ロスコ、ジャスパー・ジョーンズ、フランク・ステラなど20世紀の抽象的傾向の作品の画像を見て、残りの時間を午前の制作の継続にあてた。

3)第3日目
 この日は「出て来い私!」というキャッチフレーズによる課題を行った。
 「海」や「原野」など作品の“お題”を書いたくじを引いて、当たったテーマに沿った作品制作をするもので、平面、立体の制限はなく、30cm角の画用紙や各自持参した画材を使って行なった。与えられたテーマをこなして自分の限界を超えようとする意図のプログラムであった。

   「出て来い私!」のお題を書いたくじ

4)第4日目
 午前中は2日目や3日目の課題を継続して行い、午後はプロジェクターを見ながら、アニッシュ・カプーア、ヨーゼフ・ボイス、ゲルハルト・リヒター、河原温など1960年代以降の作家の作品と名古屋造形大学の学生の作品の画像など現代美術の多様な表現を見た。
 最後に制作途中の作品を仕上げ、合評会をして講座を終えた。(久慈伸一)

  合評会

   
   
   
   
  
親と子の美術教室「親子でつくるアートなケーキ」


内容:スポンジなど身近な材料を土台に、軽くて柔らかい紙粘土を生クリームのように絞りだしたり、造花やビーズで飾りつけをして、ストーリーあふれるオリジナルケーキをつくります。
日時:2012年12月9日(日) 10:00~15:00
対象:小学生の親子10組程度
講師:森愛子氏(造形作家)

 はじめに色のついた粘土を混色するための基礎知識として、色には赤・青・黄三原色があること。色のついた粘土を混色するときは、2種類を混ぜて混色することが大切であること、混色すると少し白っぽくなること、3種類混ぜるとると灰色っぽく色が濁ることなど、混色の原則が説明がされた。
制作に入る前に講師が作った参考例のケーキを背景の絵の前において、どんなケーキにするか想像しながら参考例として見た。
 次に、プラスチックの型にサラダオイルを塗って、アクリル絵具を混ぜて色づけした超軽量粘土を押しつけて様々な形のドーナツを作った。サラダオイルは粘土が型から外せるよう、型に粘土がくっつくのを防ぐために塗る。

   

 さらにスポンジを土台にした、デコレーションケーキ作りをおこなった。超軽量粘土にアクリル絵具を混ぜて色づけした生クリーム状の粘土をペインティングナイフを使って2枚のスポンジに塗り込んで、重ねて本体を作り、デコレーションを作るために粘土を口金のついた袋から絞り出して花模様などをつけ、色のついたビーズなどでカラフルな飾りをつけていった。この時、粘土の硬さは水を加えて調整するが、出来上がりに関わるので水加減を慎重にすることが肝心である。
 途中、講師が準備した手作りの人形と豪華なデコレーションケーキを使って、ピョちゃんの物語というひよこの人形が主人公の寸劇を見て制作を続けた。それぞれのゴージャス感が表現されたオリジナルケーキができあがった。(久慈伸一)

   
   
   
   
一日創作教室「散歩のように絵を描く~手や版でとどめるイメージ」

内容:画面の中を散策するように、手の赴くままにひいた線や、一枚しか作れないモノプリントの版画技法を用いた色や形に触発されたイメージ、あるいは日常の体験、物語・詩から得たイメージをメモする感覚で描いてみます。
日時:2012年12月16日(日) 10:00~16:00
対象:高校生以上一般12名程度
講師:久慈伸一(当館専門学芸員)

 絵画を描くという行為には様々なアプローチがある。自由に描くためには、様々なアプローチの効果と方法的な意味を理解しておく必要がある。アプローチの仕方は描かれる絵の数だけ無数にあるので、実際は絵を描く都度、試行錯誤と発見を繰り返しながら体得することになる。
 オーソドックスな美術教育では体験しない、描画行為そのものを意識化するためのプログラムを行った。
 午前中はまず、線やタッチといった、身体を介し、直接画面上に描画の痕跡をとどめる絵画ならではの描画行為として、線による描画を、二つの方法で体験した。
   
(1)体を使って描く:手先や腕だけでなく身体全体の関わりを意識するために、鉛筆を手に屈伸運動をしながら描いたり、後ろ向きで描いたり、走る行為の途中で描くなど、様々な固有の運動に伴う線のベクトル(力や速度の方向を伴ったもの)を意識して、可能なことを実際に試してみた。
(2)音楽を聴きながら描く:(1)の試みが身体の運動状態に限定したニュートラルな精神状態を想定した場合とするなら、音楽のリズム、音色、メロディーなど心身ともに影響を及ぼす刺激が与えられる状態として、音楽を聴きながら生じる自発的な身体の反応に任せて描いてみた。

   
   

 昼休みをはさみ午後には、午前中に行った線描やタッチといった描画行為では出せない表現効果・領域について考えるため、ヘラやペインティングナイフを使ったり、ステンシルのような型を使った、面的な効果を得る方法で表現へのアプローチを試してみた。

   
   

 そのあと、常設展示室の作品を見ながら、作者の様々な「描画行為」が画面の中でどのように展開されているかに留意しながら鑑賞した。最後にホールの石柱や石の壁にトレーシングペーパーをあて、石の模様から触発されて見えてくるかたち(人の顔や動物などの)を鉛筆でなぞりながら、定着させるように描いていった。(久慈伸一)
技法講座「古代のサウンドオブジェを作る」

内容:古代の不思議な楽器、竹法螺(たけぼら、管楽器の一種)やスピリッツキャッチャー(うなり弓)を木や竹を使って作り、音を楽しみます。途中、スライドを見ながら様々な民族楽器などの紹介もします。
日時:2013年3月2日(土) 13:30~16:30、3月3日(日) 10:00~15:30
対象:一般12名程度
講師:関根秀樹氏(和光大学非常勤講師、多摩美術大学特別講師)

 一日目は、はじめに長さの異なる竹の筒を床に打ち当てて音を出す打楽器を作って演奏した。作り方は、まず低音部となる長い竹を切り、準じ段階的に短くして高音部の竹を切り出していく。切った竹を各自二本ずつ手に持って数人で床に打ち当てて高音と低音が奏でる即興の演奏を楽しんだ。  
 次に講師が鳥笛や鼻で吹く楽器、さらにバリンビン(口琴)、スピリッツキャッチャー(うなり弓)など、様々な珍しい民族楽器を奏でてみた。

   
   

 続いて、竹ぼらを作って吹いてみた。竹ぼらは、本体を太い竹の根本側の節を残して、節から1.5cm上の所をのこぎりで切り、もう片方は筒状にして切り出した。さらに節から2cmくらいの所に9mmのドリルで穴をあけ、小刀で削って歌口を作った。竹ぼらは、歌口に唇をあて、横笛を吹く要領で静かに息を入れ音を出した。非常に微妙なコツが必要であるが、参加者は全員、見事に音を出した。

   

 2日目は古代の火起こしのデモンストレーションから始まった。円筒形の太い木の筒の先に火起こし用のうつぎと呼ばれる軸をつけたものを、板にあて、筒に巻いた紐を左右に引いて回転させ、軸と板との摩擦で火をおこすというものである。
 次に「うき」とよばれる東北の猟師マタギが使っていた雉笛を作った。太さ1から1.5cmくらい、長さ5~6cm程度の枝を二つに割り、それぞれの内側をブリッジ状に高さ2mm程度、長さ3cm程度を削り出し、4mm幅のゴムを両端から張ってはさみ、輪ゴムで止めて完成。これを唇にあてて吹くと、ゴムのリードが振動して音が出る。

  

 さらに、スピリッツキャッチャー(うなり弓)を作った。長さ30cm、幅3cm、厚さ3cmのアガチス材を2枚重ねて小刀で同じデザインのカタチに削り、両端にゴムをひっかける溝を作り、紐を通す穴をあける。2枚の板の間に長さ15cm、幅5cm、厚さ1cmのプラスチック板を切ったものをはさみボンドで接着し輪ゴムで固定する。さらに板に十字型になるよう、ゴムの張りを受ける支柱を溝を削ってはめて固定し、板ゴムとたこ紐をつけて完成。紐を持って頭上でぐるぐる回すと、この楽器の名前の由来を彷彿させる魔術的とも言える振動音を発した。(久慈伸一)