栄光の「LIFE」 世界を切りとった写真1946-1955
1936年アメリカで創刊されたグラフ写真誌「LIFE」は、いわば時代を映す鏡として一躍注目を集め、発行部数数百万部に及ぶ世界最大の報道写真誌となった。「LIFE」では写真というメディアのもつ特質がいかんなく発揮され、表現としての写真のもつ可能性が大きく高まったといえよう。紙面を飾った写真は、朝鮮戦争をはじめ世界中の事件や事故をとりあげたニュース写真から、「時の人」の肖像、フォト・エッセイとよばれる社会的なテーマを追及した作品、日常のなにげないひとこまを撮影したものまで、バラエティーに富んだ、時代の息吹が伝わって来るものである。
本展は、「LIFE」に結集したW・ユージン・スミス、デヴィッド・ダグラス・ダンカンなど、世界の写真家約80人による200点の作品により、写真のもつさまざまな魅力をさぐるものであった。
東京国立近代美術館所蔵 近代洋画の名作
この展覧会は、東京国立近代美術館が平成3年2月1日から10月31日まで改修工事のために休館するのを機会に、日頃接することが難しい名画の数々を、日本各地で多くの人々に鑑賞していただこうという趣旨から企画された。
今回は、東京国立近代美術館の所蔵作品の中から、洋画72点が出品された。これらの作品は、今世紀初頭から現代にいたる近代日本の美術の流れをみるうえで大変重要であり、また作品としても高い評価を受けているものばかりであった。
重要文化財2点を含む名作によって時代順に構成された「近代洋画の名作」展は、オリジナル作品を通して近代日本美術の流れを振り返ることができるよい機会でもあった。
現代ドイツの鬼才 ホルスト・ヤンセン展
ホルスト・ヤンセンは、1929年ドイツのハンブルクに生まれ、現在旺盛な制作活動を展開しているヨーロッパを代表する画家の一人である。美術上の運動に関心を持たず、水彩や素描、版画などにその制作手段を限定し個性的な世界を守り続けてきたヤンセンは、「デューラー以来の素描の巨匠」として世評を高める。卓抜した技量で描かれる線描の世界は、散歩の道すがら眺めた風景にはじまり、枯れた植物、愛情と皮肉を持って見られる歓楽街の庶民、そして日付入りで描かれた数多くの自画像というように、きわめて多様なもので、そこには不安に満ちながらも素晴らしい人生との情熱的な対話が繰り広げられている。
ときには、一日のうちに数十点を制作するという驚異的な創造力の高揚のなかで生まれた作品群のなかから、本展では、ヤンセン自身の協力を得て、本人所蔵のコレクションを含めた代表作、水彩、素描、版画約460点を厳選して、この現代に生きる「画狂人」の全貌を紹介した。
ベン・シャーン展 アメリカの良心が描く愛と希望のメッセージ
20世紀のアメリカの絵画を代表する画家の一人であるベン・シャーン(1898-1969)は、ロシアのリトアニアに生まれ幼い頃ニューヨークに移住し、石版画工房で働きながら絵や版画を学んだ。彼は一貫して人類愛と社会正義を訴えかけた画家で、戦争、冤罪、原水爆、飢えなど社会の現実を主題にしたほか、アメリカ各地の庶民の日常生活や街の情景などを多く描いた。彼の芸術は具体的な事物を描いているが、写実的ではなく抽象的表現を積極的に取り入れており、寓意的象徴的な傾向が強い。また、多くのポスターを制作しグラフィック・デザイナーの草分けとして日本の作家にも大きな影響を与えている。
今回の展覧会では、ニュージャージー州立美術館の元館長でベン・シャーン研究の第一人者であるケネス・W・プレスコット氏の協力を得ながら、本館が基幹館として準備にあたった。本館の収蔵作品の中核の一つであるベン・シャーンの芸術の全貌を、ヨーロッパやアメリカ各地の美術館や個人蔵の絵画、版画、ポスター、写真など163点によって振り返るものであった。
蛎崎波響とその時代展
江戸時代後期に北海道松前藩主の子として生まれた蛎崎波響(かきざき・はきょう 1764-1826)は、北海道が生んだ最初の本格的画人であり、本県との関わりの深い画家としても知られている。彼は家老蛎崎家の養子となって藩政ををささえるとともに、松前藩が伊達郡梁川(現:福島県梁川町)に転封されると、藩地回復に奔走した政治家であった。また、幼くして画技に才能を発揮していた波響は、宋紫石、円山応挙らの画家の薫陶を受けて、優美な花鳥や艶麗な人物を描き、江戸や京都の知識人たちとも幅広く交遊した文化人であった。梁川時代の波響は、藩地回復に全力を傾ける一方で、梁川の豊かな風土に魅せられて、「梁川八景」や「四季花鳥図巻」などの傑作を生み出した、実り多い時代であり、彼の画業を展望する上で看過できない重要な位置を占めている。
本展は今まで紹介されることの少なかった画家、蛎崎波響の本格的な全国規模の回顧展であるとともに、彼の画風に影響をあたえた、宋紫石、円山応挙、松村景文ら同時代の画家の作品や熊坂適山をはじめとする彼の門人たちの作品をも展望する総合的な展覧会であった。
ブカレスト国立美術館所蔵絵画展
1948年に創立したブカレスト国立美術館は、旧ルーマニア王家のコレクションを基礎に王宮の建物に作られた美術館で、古今東西の10万点以上にも上る美術品を収蔵している。今回は、そのコレクションの中から16世紀から20世紀にわたるヨーロッパ絵画の名作がわが国で初公開されるとともに、これまで紹介されることの少なかったルーマニアの近・現代美術の作品があわせて展示された。
ヨーロッパ絵画はイタリア、スペイン、フランドル、オランダ、ドイツ、ロシア、フランスのルネッサンスからバロック、ロココ、印象派、20世紀始めまでの作品50点が出品され、西欧絵画の流れが一望できるものであった。
また、フランス美術の影響を受けながらもルーマニア独自の民族性のうちに個性的な世界を築いた19世紀半ばから1950年代までのルーマニアの11作家の作品22点が出品されたほか、1989年12月のルーマニア革命で美術館にも戦禍が及んだ際、銃弾で損傷を受けた作品1点も特別出品された。
水彩画のモダニスト 渡部菊二展
明治40年福島県会津若松市に生まれた渡部菊二は、主に戦前期に活躍したモダニズムの水彩画家である。昭和6年、日本水彩画会展に初入選したのをきっかけに次第に評価を高め、昭和11年「日蝕」で文展に入選。また昭和15年には小堀進や春日部たすくとともに水彩連盟を結成し、新しい水彩画の方向を模索した。作品にみられるデフォルメ、装飾的な配色、卓抜な画面構成は、菊二が造形的な要素に強い関心を抱いていたことを明らかにしている。菊二は近代的な造形思想に裏付けられた作品群によって、昭和前期の水彩画界に重要な足跡を残した。
本展覧会では、戦後間もない昭和22年わずか40歳で亡くなった菊二の画業を、水彩画のほかに油彩や版画、挿絵も含めて100点余りの作品により振り返った。
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