ルオー版画展 聖と俗、魂の光
道化師の絵で知られるフランスの画家ジョルジュ・ルオー(1871-1958)は、深い精神性をたたえた重厚な作風で多くの人々を魅了してきた。中世のステンドグラスを思わせる太く強い輪郭と重厚な輝きをみせる色彩で描き出された道化師、娼婦、裁判官、キリストの受難や聖書の場面の数々。彼は、人間心理の鋭い観察者、そして熱心な信仰者として人生の悲惨さ、現実の醜悪さを苦悩と絶望をこめて浮き彫りにする一方、聖なる魂が光輝を放つ、やすらぎに満ちた世界を表現し続けた。
ルオーは、画商ヴォラールとの出会いを機に、版画の制作を意欲的に進めた。絵の具を何度も塗り直し、非常な努力の末に描いた油彩と同様、あらゆる技法的な努力を重ねて制作された重厚で個性的な作品群は、ルオーの画業の中で重要な位置を占めている。
本展ではハーモ美術館の所蔵作品を中心に「ミセレーレ」「ユビュおやじの再生」「受難」など主要な版画144点を紹介するほか特別出品として油彩作品6点を展示した。
河井寛次郎展 祈りと悦びの仕事
河井寛次郎(1890-1966)は、近代日本を代表する陶芸家の一人である。明治23年に島根県の安来に生まれた彼は、東京高等工業学校窯業科に学び、京都市陶磁器試験場に勤め、釉薬について深く探求するとともに、高度な技術の習得に務めた。大正9年に独立して京都五条坂に鐘溪窯を築き、昭和41年に没するまで旺盛な制作活動を展開した。この間、東京高工在学中に濱田庄司とめぐりあったのをはじめ、バーナード・リーチ、柳宗悦との出会いにより、無名の職人たちが作ってきた雑器のもつ質実で素朴な美に共鳴し、濱田とともに民芸運動の実践者として生涯を捧げていった。
この展覧会は、おおきく3期に分けられる寛次郎の制作活動のうち最も充実した作陶を展開した中期の作品を中心に、京都国立近代美術館所蔵の川勝コレクションを軸とする初期から晩年にいたる代表作164点により、寛次郎の仕事の今日的意義を探るものであった。
ハンガリー国立ブダペスト美術館所蔵 ルネサンスの絵画展
ハンガリーの首都ブダペストにある国立ブダペスト美術館は、古代エジプト美術から近現代美術にいたるまで、豊かで質の高いコレクションを秘蔵しており、なかでもルネサンス絵画のコレクションのすばらしさはつとに知られている。
本展では、国立ブダペスト美術館が所蔵する16世紀盛期ルネサンス絵画に焦点を絞り、ヴェネツィア、フィレンツェを中心とするイタリア・ルネサンスの作品と、ドイツ、ネーデルランドを中心とする北方ルネサンスの作品を合わせて紹介した。ヴェネツィア派の黄金時代を築いたジョルジョーネ、ティツィアーノ、ティントレットをはじめ、スペインで活躍したエル・グレコ、フィレンツェの宮廷画家ブロンジーノ、そして、北方に独自のルネサンス絵画を生み出したデューラー、クラーナハ、クレーフェなど、南北の盛期ルネサンスの巨匠たちによる宗教画・神話画・肖像画70点が一堂に会した。
日本画の風景 人と自然の200年
四季の移ろい、山河の風趣など、こまやかな自然美に恵まれたわが国では、古来より多くの画家がその景観に魅せられ、数々の名作を生み出してきた。
近代以降、伝統的な山水画や名所絵の精神が受け継がれる一方で、実景に即した風景表現も行われるようになり、特に明治から大正にかけては、造形的な試みが進み、更には外国の景観すら描かれるようになった。日本画における風景表現の系譜を振り返ってみるとき、そこには時代を超えたある共通の風景観、日本人のものの見方を窺うことができる。
本展は、(1)名所と見立て (2)画家たちの異郷 (3)風景の再発見 の3部構成から成り、日本画にみる風景の名作100点余りを展示した。江戸時代後期から現代までの約200年間を通して、日本人がどのような<風景>を好み、そこに何を見てきたのか、日本画家の視点を手がかりに探ろうとしたものである。
ニューヨーク・リアリズム 摩天楼の詩情とダイナミズム
摩天楼とエスニックの街ニューヨークは、今世紀の初頭以来、世界の経済・文化の中心地としてエネルギッシュな発展を遂げると同時に、さまざまな新しい芸術も生まれ、アメリカ美術のみならず、世界の現代美術をリードする数多くの芸術家を輩出した。
本展では、多様な表情を見せるニューヨークの20世紀アート・シーンの中から、リアリズムと呼ばれる写実的、具象的な絵画に焦点をあて、そのダイナミックな100年の歩みを展望した。
大都会の下町に生きる庶民の姿を哀歓をもって描いたジョン・スローンやマーシュ、近代都市のエネルギーとダイナミズムをモダンな様式で表現したマリン、スチュアート・ディヴィス、1920年代から30年代のアメリカン・シーンを代表するエドワード・ホッパーやベン・シャーン、国吉康雄、70年代のスーパー・リアリズムを代表するリチャード・エステス、レッド・グルームスやキース・へリングといった新世代の個性的なアーティストなど、約60名の作家による80点の作品を展覧して、巨大都市ニューヨークの光と影を紹介した。
没後100年 高橋由一展 近代洋画の黎明
日本の画家が油絵という技法に取り組むようになったのは、幕末・明治初期のことである。高橋由一(1828-94年)は、この近代の始まりの時代に孤軍奮闘して西洋の絵画技法を学んだ画家の一人だった。
由一は最初日本画を学ぶが、西洋の石版画の真に迫る描写に感動し、是非この技法を身につけたいと考え、幕府の洋学校・洋書調所画学局に入所する。そこで油絵具を作るところから始め、遠近法や明暗法を必死に勉強し、「鮭」や香川県の金刀比羅宮に奉納された一連の静物画に見られるような、対象の質感に迫る独自の写実表現を追及した。一方、画塾の経営や美術雑誌の発行、美術館構想の提言などを通じて洋画普及のために多方面に働きかけをしており、美術事業家としての側面も持っていた。
また当時、山形、福島、栃木の県令を務めていた三島通庸の依頼を受けて東北地方を訪れ、次々と建設されていく道路や橋、トンネルなどを油絵や石版画で数多く描き残し、東北ゆかりの画家でもある。
由一が亡くなって100年。西洋と日本、美術と社会などさまざまな視点からあらためて由一の仕事を細かく見直そうというのが今回の企画の趣旨であった。新発見の作品も含め、油彩・水彩・素描や版画など約350点を展示し、由一の画業を検証した。
特集展示 抽象のかたち—福島の4人—
会期:1995年3月10日-26日
抽象表現は戦後絵画の大きな傾向の一つであり、福島県内においても多くの画家が取り組んでいる。フランスでモダンな構図と色彩による油彩画を制作した土橋醇(1910-78、郡山市)、シュールレアリスム風の人物像を描いた鎌田正蔵(1913-1999、三春町ゆかり)、和紙を使ったコラージュで知られる若松光一郎(1914-1995、いわき市出身)、油彩画で独自のマチエールを追求した佐藤辰治(1916-63、小野町出身)らはその代表として挙げられよう。本展ではこの4名の抽象画家たちにスポットを当て、館蔵品40点あまりにより本県における抽象表現の特質を探った。
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