ルートヴィヒ・コレクション ピカソ回顧展
パブロ・ピカソ(1881-1973)は、20世紀美術の流れに大きな足跡を残し、その軌跡をたどる上で最も重要な芸術家の一人である。決してひとところに留まることなく、常に新しい表現に挑み続けたピカソは、変転を繰り返し、疾走してきた20世紀美術を自ら生きたといえるだろう。油彩画はもとより、版画や素描、彫刻そして陶器など、さまざまな技法によって制作された夥しい数の作品は、彼の生の記録といってもよい。
ピカソを知るには、個々の作品に執着するより、作品の変化の流れを全体としてつかむことが大切だという考えに基づいて収集活動を行ったのは、ドイツの実業家ペーター・ルートヴィヒ(1925-96)だった。彼は戦後いち早く収集を開始し、一つのポリシーを軸に、テーマや技法を考慮した包括的なコレクションを築いていった。欧州で最大のピカソ・コレクションともいわれるこのコレクションは、ドイツのケルン市立ルートヴィヒ美術館を中心に、ウィーン、ブタペストなどヨーロッパ各地に点在している。本展は、そこから174点を精選して展示した。多彩なピカソ芸術の全容を回顧するよい機会となった。
反骨の日本画家 勝田蕉琴展
勝田蕉琴(1879-1963)は、明治12年福島県東白川郡棚倉町に生まれ、主に文展、帝展など、戦前の官展を舞台に活躍した日本画家である。
彼は10代のころ、会津の日本画家野出蕉雨に手ほどきを受けて蕉琴と号し、20歳で上京、翌年橋本雅邦に師事している。東京美術学校日本画科を卒業後は、岡倉天心の推薦でインドにわたり、2年間詩人タゴールの家に滞在しながら、仏教遺跡の調査、官立美術学校の教授に携わった。帰国直後の第1回文展に「出城釈迦」「降魔」が入選すると、その後は文展・帝展に入選を重ね、帝展委員、審査員などを歴任し、官展の重鎮として名を成した。
また、大正8年には、島田墨仙、野田九浦、石井林響らと如水会を結成、さらに同年福島県出身の日本画家を結集した福陽美術会を発足させるなど、県内外でも幅広く活躍し、特に県内画壇の育成に力を注いだ。昭和10年の帝展改組では、一貫して反対の立場を貫くなど、名利をこえて画壇の抗争に異議を唱える硬骨漢として、昭和38年に没するまで画道一筋の生涯を送った。
蕉琴は写生を基礎とした、気品ある花鳥画をよくしたほか、端麗な水墨山水など幅広い画技を示し、戦前の官展作家の典型をそこにみることができる。生誕120年を機に初めてその画業を振り返るこの展覧会では、明治から昭和にいたる代表作100点とともに、非凡な写生家の技量を示す下絵などを併せて展示し、画業の全体像を呈示した。
ボナノッテとデ・ミトリオ二人展 現代イタリア彫刻と宝飾彫刻
古代ギリシャ、ローマ以来の芸術的伝統を誇るイタリアは、彫刻からジュエリーにいたる独自の造形文化を育んできた。特に20世紀具象彫刻の分野においては、ファッツィーニやマリーニといった世界的な巨匠を輩出するなど、世界に大きな影響を与えており、その動きは戦後の新しい世代にも継承されている。
現在ローマを拠点に活躍しているチェッコ・ボナノッテ(1942-)は、戦後イタリア具象彫刻を担う作家として国際的に注目されている彫刻家である。人物を主題に、伝統的な蝋型鋳造の技法を駆使した彼のブロンズ像は、繊細な造形のなかにも深い精神性をたたえている。
一方、ボナノッテの妻であるマリア・アントニエッタ・デ・ミトリオ(1943-)は、金や宝石を素材とした宝飾彫刻で知られている。木の実や果実をモチーフに、やはり蝋型鋳造による丹念な細工が施された作品は、ジュエリーという範疇にとどまらない、独自の造形世界を展開している。
本展は二人の近作をもとに構成され、現代イタリア美術の息吹を伝える展観となった。
生誕100年 岡鹿之助展
静謐で典雅な作品を描いて人々を魅了した洋画家・岡鹿之助(1898-1978)は、明治、大正時代に活躍した劇作家岡鬼太郎の長男として東京に生まれた。東京美術学校卒業後フランスに渡り、15年に及ぶ滞在によって西欧近代絵画の本質を見極め、油彩画の原点である絵具の研究にも力を注いだ。その著書「油絵のマチエール」は、油彩画を学ぶ人の必読書として読み継がれている。帰国後は春陽会を主な舞台にして、詩情溢れる風景や華麗な花などを主題に、独特の点描による精緻な作品を発表した。芸術院会員、文化勲章と日本の洋画界で最も高い評価を受けたが、そのような名声に酔うことは全くなく、晩年に至るまで厳しく自己の作風を磨き、理想の造形を追求し続けた孤高の画家であった。
生誕100年を記念して開催する本展では、初期から晩年に至る代表作約120点に、素描・版画30点をあわせて展示し、岡鹿之助芸術の全貌を紹介した。
福島の新世代'98 -A message to the next century-
福島県立美術館では、平成8年に福島県出身・在住の気鋭作家をとりあげた「福島の新世'96」を開催したが、本展はそのシリーズ第2回展として企画された。
出品作家の選考にあたっては、第 1 回展開催の平成8年以降、充実した創作活動を展開する新進作家にスポットをあてた。絵画、工芸から現代美術にいたるまで、7名の作家の新作及び近作67点を紹介したが、それぞれに独自の手法が試みられており、多様な現代の様相をリアルに展望できる内容であった。
また、出品作家によるギャラリートークや音楽、舞踊、朗読とのコラボレーション・イベントを同時開催することにより、鑑賞者の理解をより多角的に深められるよう考慮した。
出品作家は以下の通り。
石川貞治(1951-)いわき市出身・在住
薄井崇友(1960-)白河市出身/東京都在住
宗像利浩(1957-)会津本郷町出身・在住
線 幸子(1949-)いわき市出身/横浜市在住
加藤 学(1961-)相馬市出身/東京都在住
高橋克之(1967-)福島市出身/喜多方市在住
渡辺晃一(1967-)北海道出身/福島市在住
中国陶磁の至宝 英国デイヴィッド・コレクション展
デイヴィッド・コレクションは、中国陶磁の研究家としても著名なイギリスのサー・パーシヴァル・デイヴィッド(1892-1964)が半生をかけて収集した中国陶磁のコレクションである。1400点余りからなるこのコレクションは、1950年、ロンドン大学に一括して寄贈され、パーシヴァル・デイヴィッド財団が設立された。
サー・パーシヴァルの的確な鑑識眼と見識によって選び抜かれた名品の数々は、中国宮廷が築いた窯「官窯」の精品を中心に宋、元、明、清各時代の最高とされるものが多数含まれており、歴代王朝の貴族趣味、宮廷趣味が色濃く反映したものである。「小宮廷コレクション」と呼ばれるこれらの作品は、故宮の伝世品以外では目にすることが難しい。また、文献に拠った周到な研究に基づいて収集されているため、学術価値の高い在銘品、基準作品が多く含まれているのもコレクションの際だった特徴である。
本展は、ロンドン大学及びデイヴィッド財団の協力により、日本初公開を含む80件の代表作品を厳選して展観した。
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