ロダン展
会期:1999年4月10日-5月16日

 19世紀フランスを代表する彫刻家、オーギュスト・ロダン(1840-1917)は、「考える人」「地獄の門」などの作品で広く世に知られている。
 貧しい下級官吏の息子として生まれた彼は、幼い頃から芸術の道を志し、帝国素描・算数専門学校で彫刻を学んだ。芸術家の登竜門である国立美術学校の入学試験には挫折するものの、人気彫刻家のもとで下彫り工として働きながら研鑽を積み、独自の個性を培っていく。1877年、「青銅時代」の迫真的な肉体表現で一躍注目を集めたロダンは、その後も「カレーの市民記念像」「バルザック記念像」など、それまでの彫刻の流れを変えるような斬新な人物表現を生み出し、大きな名声を確立した。
 この展覧会では、フランス国立ロダン美術館所蔵作品を中心に、日本各地の美術館所蔵作品もあわせた彫刻67点とデッサン25点、そして、ロダンの作品を同時代の写真家が撮影した写真25点を一堂に展示し、ロダンの偉大な芸術の世界を紹介した。
鈴木治の陶芸 語りはじめた土の象(かたち)
会期:1999年5月22日-6月27日

 鈴木治は大正15年、京都に生まれた。京都市立第二工業学校窯業科を卒業し、戦後、陶芸家の道を志した。昭和23年、八木一夫、山田光らとともに<走泥社>を結成し、新しい陶芸の創造を推し進め、昭和30年頃からは、器としての用途を全くもたない造形的な作品を発表するようになる。
 作家自身が<泥象(でいしょう)>と称するこれらの作品は、陶芸における表現の可能性を広げ、ひいては陶芸観そのものをも大きく変化させる重要な役割を果たしてきた。鈴木治の着実で、独創的な活動は世界的にも高く評価されている。
 鈴木治の作品は、馬、鳥、魚などの動物や、雲、風、太陽などの自然をモチーフとしたとても親しみやすいものである。信楽の土を使い赤化粧を施す作風は、一見、土本来の姿が自然に現れたかのような量塊性と素朴さを特徴とする。また、影青(いんちん)と呼ばれる透明度の高い青白磁による作風は、宝石のように美しい器肌と軽やかな造形性が魅力である。いずれの手法も、鈴木治の表現には欠かせないもので、どの作品も鋭い感性を秘めながら、穏やかな形態性を示し、詩情あふれる独自の世界をみせてくれる。
 本展では、鈴木治の半世紀におよぶ制作の軌跡をたどり、初期から最新作までの約140点を展示し、その全貌を紹介した。そしてさらに、鈴木治の作品に象徴される戦後の陶芸の歴史を振り返り、21世紀に向けての新しい陶芸のあり方を探ろうとするものであった。
共同制作の可能性 コラボレーション・アート展
会期:1999年7月10日-8月22日

 <コラボレーション(collaboration)>--共同制作は、音楽や演劇などのジャンルにおいては日常的に行われているが、美術の世界(とりわけ近代以降)では、一般的な創作形態として定着しているとはいい難い。しかしながら個人主義の神話も陰りを見せはじめた1960年代以降、テクノロジーの発展に伴うメディアの拡大に伴って、従来の美術概念を個人制作のレベルから大きく押し広げるアーティスト・ユニットが数多く登場するようになった。
  たとえば“生きた彫刻”で脚光を浴びたギルバート&ジョージや、家族で世界中を旅しながら地表をコピーするボイル・ファミリーらの活動は、単に複数による創作行為というだけでなく、美術と社会の新たな関係を提示するものであった。そして現在、コラボレーション・アートのスタイルは、既存の美術作品の枠を飛び越え、多様なジャンルからのアクセスを可能にした。鑑賞者が作品を体感するインタラクティブ・アート、身体表現によるパフォーマンス、作品を自然や街角に設置する環境芸術など、あらゆるアート・シーンで活躍するコラボレーション・アーティストたち。彼らは、現在の美術のあり方をどのように捉え、何を仕掛けようとしているのだろうか。
 本展は、これら現代美術アーティスト・ユニット12組をとり上げ、展示とイベントの両面から<共同制作>の意義を再検討し、アートの未来像を探ろうとするものであった。
生誕100年 関根正二展
会期:1999年9月4日-10月17日

 福島県白河市に生まれ、日本の美術に特異な足跡を残した画家・関根正二(1899-1919)。二科展に「信仰の悲しみ」などを出品して樗牛賞を受賞し新進の画家として期待されながら、スペイン風邪のためにわずか20年の短い生涯を閉じた。
 関根の芸術はアカデミックな教育によって育てられたものではなかった。先人たちの仕事から自分に必要なものを見つけて吸収する能力と、多くの友人たちとの交流によって、彼は成長していった。後に画家となった伊東深水、河野通勢、東郷青児、あるいは文学に進んだ今東光、久米正雄ら才能豊かな青年たちと、創作のかたわら芸術論を闘わせ、遊び歩き、貧しいながらも充実した日々を送ったのである。天才にあこがれ、一直線に芸術に突き進んだその生涯と、幻想的な作品は、時代を超えて私たちを強く魅了してやまない。
 生誕100年を記念して開催されたこの展覧会では、現存する作品約90点と、彼が有形無形の影響を受けた友人や同時代人の作品を展示し、関根正二の芸術の全体像を紹介した。