仙人と呼ばれた画家 熊谷守一展 愛知県美術館所蔵・木村定三コレクションから
会期:2005年4月23日-6月5日

 熊谷守一(1880-1977)は天性の自由人であり、独自のスタイルを築き上げた画家である。岐阜県に生まれた熊谷は、東京美術学校西洋画科で黒田清輝らの教えを受ける。同級生には青木繁、山下新太郎らがいた。東京の小さな家に住み続け、三十年間ほとんど外出せず自宅の小さな庭に住む生き物たちを、徹底的に単純化して描いた。文化勲章も断って自由と自分の時間を大切にし、97歳の天寿を全うしている。仙人と呼ばれたほど無欲で清貧な暮らしぶりと、余分なものがない純粋な絵や書は、多くの人々を引きつけるものであった。
 本展では、画家を四十年間にわたって支援した名古屋の美術収集家・木村定三が収集し、その後、愛知県美術館に寄贈された木村コレクションから、油彩画、日本画、書など約150点を展示し、希有な<自由人>熊谷守一の魅力を紹介した。
New Spirits 福島―鴻崎正武・高橋克之・小林浩 物語をめぐって
会期:2005年6月18日-7月18日

 福島県立美術館では、さまざまな形で福島県出身または在住の注目すべき若手作家を紹介してきたが、本展はあるテーマのもとに、よりタイムリーに新しい創作活動を取り上げるものである。今回は「物語」という視点から、県内外で活躍する三人の作家を紹介した。
 古今東西のさまざまな物語空間を作品の中に取り込む鴻崎。複数の作品を連ねて物語を紡ぎ出す高橋。寡黙な人形たちによって物語を想起させる小林。三者三様、それぞれの「物語」へのアプローチを手がかりとして、今という時代を見つめ直そうとするものであった。
 出品作家は以下の通り。
 鴻崎正武(1972年生まれ、福島市出身)
 高橋克之(1967年生まれ、福島市出身)
 小林 浩(1967年生まれ、郡山市出身)
特集展示 野地正記—迷宮という秩序—
会期:2005年6月18日-7月18日

 二本松ゆかりの洋画家、野地正記の特異な画業を回顧する初の展覧会。戦争体験をとおして心の奥底に潜む不安や孤独を描き出した野地は、読売アンデパンダン展で瀧口修造に高く評価され、シュールレアリスムへと傾倒した。
 野地の作風は、マライ俘虜の記録画を頂点とする具象的傾向と、1950年代以降の有機的抽象傾向のものとに大別される。本展では初期から晩年までの236点により、知られざる画業の全容を明らかにするとともに、瀧口からの書簡や周辺資料により二人の交友についても紹介した。
ベルギーが生んだ仮面と幻想の画家 ジェームズ・アンソール展
会期:2005年7月30日-9月4日

 ジェームズ・アンソール(1860-1949)は、ベルギーの近代美術を代表する画家の一人で「仮面の画家」として知られる。カーニヴァルの仮面、骸骨、グロテスクな人間が登場する劇場を思わせる画面には、現実の醜悪な姿を暴き、人間の真実に迫る、辛辣で、諧謔を交えたアンソールならではの批評精神が発揮されている。
 その一方で、アンソールの画家としての出発点には、写実主義の模索があり、故郷の海辺の風景や静物、人物などを描いた青年時代の作品には、対象を光の中に捉える優れた感性を伺うことができる。独自の芸術を形成する過程では、東洋の影響も指摘されており、今回、葛飾北斎による絵手本『北斎漫画』を模写した素描がまとめて紹介された。 
 本展では、アントウェルペン王立美術館、オーステンド市立美術館などが所蔵する油彩、素描、版画約140点により、初期から晩年に至る画家の全貌を紹介した。
柳宗悦の民藝と巨匠たち展 柳宗悦の心と眼
会期:2005年9月13日-10月23日

 柳宗悦(1889-1961)は日本独自の芸術運動ともいえる「民藝」の創始者、推進者として知られている。柳はそれまで顧みられなかった日本の日常的な工芸品や、身近な信仰の対象である仏像などに宿る健やかな美を見いだし、この美の領域を「民衆的工藝」すなわち「民藝」という言葉によって定義したのである。
 この展覧会では、柳が収集した数々の名品約90点と、民藝運動に関わった作家たちの作品約60点、そして民藝に関する貴重な資料などを併せて紹介した。富本憲吉、バーナード・リーチ、河井寛次郎、濱田庄司、芹沢けい介、棟方志功、黒田辰秋は、柳の理念や感性を共有し得る優れた思想家であり、また同時に造形を通して実践した人々でもあった。彼らの作品を併せて展示することで、「民藝」の軌跡と意味を改めて考えてみる機会となることを目指した。
爆発する芸術 岡本太郎展
会期:2005年11月1日-12月11日

 「芸術は爆発だ!」の挑発的な名セリフで、多くの日本人の記憶にのこる岡本太郎(1911-1996)。戦前パリでピカソやミロらの巨匠たちと交友した岡本は、ダイナミックな創造力を発揮して、戦後日本の美術界をリードし続けた前衛芸術家である。
 岡本太郎が創造した各種の作品は、強烈な表現で貫かれた絵画をはじめ、原始的なエネルギーに満ちた生命体を想わせる立体やオブジェ、陶器、デザイン、写真など数多くあり、そのどれもがユーモラスかつ神秘的な魅力にあふれ、見る者の全身に迫ってくる。それは、高度な文明生活をおくる現代の私たちが、過去に切り捨ててきた自由で開放的な人間性を再び蘇らせる力を感じさせるものといえる。
 本展覧会では、こうした岡本の独創的な絵画、立体、デザイン、写真など約120点により、20世紀を駆け抜けた巨人・岡本太郎の実像を紹介した。
名取洋之助と日本工房 報道写真とグラフィック・デザインの青春時代
会期:2006年2月11日-3月26日

 1930年代は、写真を多用したグラフィックな表現の時代といわれている。奇抜なレイアウトやフォトモンタージュによって写真のもつ表現力が世界的に大きく注目され、グラフ雑誌や博覧会展示に登場したのである。ドイツに学んだ写真家・名取洋之助(1910-1962)は、こうした欧米の最先端の潮流を日本にもたらし、1933年、写真とデザインの制作工房「日本工房」を結成する。ここには、土門拳や河野鷹思、亀倉雄策などの若き写真家、デザイナーが結集し、対外グラフ雑誌『NIPPON』を刊行した。この雑誌は英独仏西の4か国語で書かれ、第二次大戦前の日本の印刷物では最高峰をいくものといわれてきたが、ほとんど海外に頒布されたため、長らく幻のグラフ誌とよばれてきた。
 この展覧会は、『NIPPON』を軸に、報道写真とグラフィック・デザインの両面にわたり新生面を拓いた名取洋之助と日本工房の知られざる全貌を明らかにする、初めての大規模な展覧会である。新発見を多数含む400余点の雑誌、印刷物、写真、作品資料などにより、激動の時代に生きた若き写真家、デザイナーたちの青春群像をみつめようとするものであった。