2013年5月の記事一覧

映画「新宿泥棒日記」の上映会、お見逃しなく!

「横尾忠則ポスター展」関連企画として、福島市内の映画館フォーラム福島で横尾忠則主演の「新宿泥棒日記」(1969年/創造社)を上映いたします。
もちろんポスターも横尾忠則制作。こちらは展覧会に出品されています。


《新宿泥棒日記(創造社)1968年》©TADANORI YOKOO

監督は、今年1月15日に80歳で亡くなった大島渚。撮影当時は大島監督も横尾さんもまだ30代。若き作家たちの熱いエネルギーがぶつかり合って生まれた映画です。

『横尾忠則自伝』を読むと、映画にまつわる面白いエピソードが語られているので、いくつかご紹介しましょう。

「・・・ぼくを使って成功するかどうかということになると、とても自信はなかった。こんな気持ちを監督に話すと、『それはぼくにまかして下さい、絶対心配ないです。大丈夫です』という言葉が返ってきたが、やっぱり不安であった」
・・・
(女優の横山リエと横尾さんが性心理学者・高橋鐵にカウンセリングを受けるシーンの撮影)「高橋先生にはあらかじめカウンセリングの内容が伝えられていたが、われわれ二人は何も聞かされていなかった。その上ぼくは信じられないことだが台本を全く読まないまま初日の撮影に入ってしまった。だからそのシーンの前後の話が全くわからなかったので、自分が演っていることの意味がさっぱり理解できず、不安のどん底で演っていた。まさか台本を読んでいないと監督にいうわけにはいかなかったので、このことがバレはしまいかと撮影中は恐れ続けた」
・・・
「何かをしゃべらなければならないが、横尾忠則としてか、それとも役柄の岡ノ上鳥男としてしゃべるべきなのか、ぼくは完全にぼくの中でパニックを起こしてしまった。何がおこっているのかわからないままドキュメント風にカウンセリングは延々続いた。そして突然二人は高橋先生によって上半身裸にさせられてしまった」

これを読んでも、撮影現場はかなり凄まじいものであったのだろうと予想できます。

そして、
「ぼくの目には大島監督は映画を創っているのか壊しているのかよくわからなかったが、恐らくその両方であったのだろう。虚構の中でドキュメントやハプニング、それにぼくという実像と虚像の両方の観念の解体を試みようとしていたのではなかっただろうか」
と締めくくっています。どんな映画ができあがったのか見たくなりますね。

1960年代。従来の美的価値観や芸術概念が問い直され、権力や権威に縛られない自由な発想に基づいた新しい動向が芸術のいろいろな分野に芽吹いた時代。背景にそんな時代を感じさせる映画です。

展覧会を見て、そのチケットを持って、是非フォーラム福島へ。

「新宿泥棒日記」
 監督:大島渚
 出演:横尾忠則、横山リエ、渡辺文雄、唐十郎ほか
 1969年/創造社/本編1時間36分
 上映日:6月1日[土]-5日[水]
 上映時間:6月1日[土]-3日[月]12:30~、4日[火]、5日[水]19:00~
 観覧料金:横尾忠則展観覧券、案内葉書、福島県立美術館友の会会員証をご呈示いただければ700円になります。
 会場:フォーラム福島(024-533-1515)
 http://www.forum-movie.net/fukushima
 協力:福島県立美術館協力会

A.Y.

常設展示「横尾忠則と同時代のポスター」のご紹介

企画展示室で開催している「横尾忠則ポスター展」。
実は福島県立美術館では、横尾さんの版画を収蔵しており、今、常設展示室の最後の部屋Dにおいて「横尾忠則と同時代のポスター」という特集で展示をしています。
企画展をご覧になった方は、是非常設展にもお立ち寄り下さい。企画展観覧券をお持ちの方は観覧無料です。

収蔵しているのは1974年制作の《聖シャンバラ》(シルクスクリーン、オフセット)10点組。



1970年代はじめ、入院生活や三島由紀夫の割腹自殺などショッキングな出来事を体験した横尾さんは、徐々に精神世界へと傾倒していきます。
特にビートルズに強い関心を持っており、彼らがインドに深く傾倒していたことを知って、ヒンズー文化に強い興味を抱くようになます。そして1974年にはインド行きを実現しました。
横尾さんのインドへの関心は主にシャンバラに向けられていました。
シャンバラとは、地球の内部の空洞に存在するアガルタ王国の首都の名前であり、その地下世界のピラミッドには巨大な四次元エネルギーが秘められ、太陽と交流しているというのです。横尾さんは自らもこのシャンバラにたどり着きたいと願っていました。
そのためにはチャクラ(人間の身体にある神のエネルギーのセンター)の覚醒が必要なのだそうです。
《聖シャンバラ》は、そこにいたるまでの瞑想のプロセスをテーマとした作品です。



常設でこの作品を見て、また企画展に戻ることも可能です。
版画作品とポスターでは確かに表現は異なりますが、比べることで、この時代の横尾さんの関心のありかがよく見えてくるはずです。

ところで、今日は、ワークショップ「私自身のための広告ポスターを作ろう!」に参加してくれた高校生たちがワークショップ作品の展示を見に来てくれました。
こちらは2F常設展示から降りてきたところ、エントランスホール奥の壁面です。是非お忘れなくご覧下さい。




A.Y.

「横尾忠則ポスター展」関連ワークショップの作品を展示しました。

4月27日、5月11日と二日間にわたって、横尾忠則ポスター展関連ワークショップ「私自身のための広告ポスターを作ろう!」を開催しました。その模様はブログでご紹介しましたので、是非ご覧下さい。

5月11日に完成できなかった方もいらしたので、後日完成させて持ってきていただくことをお願いしておりましたが、20日、全員の作品が集まりました。早速、美術館エントランスホール奥に展示しております。



みなさん、四苦八苦していらっしゃるようでしたが楽しく制作できました。どれも力作ぞろいです。高校生8名(全員女子)もユニークな作品を出品してくれています。展覧会を見た後に、是非お立ち寄り下さい!

A.Y.

「横尾忠則ポスター展」ギャラリートーク開催

5月18日、土曜日、午後2時から「横尾忠則ポスター展」のギャラリートークが行われました。今回は久慈伸一学芸員が担当です。

20名くらいの方々が展示室入り口にお集まり下さいました。



第1室の初期作品から開始です。
京都勤労者音楽協議会に依頼されたコンサートポスターの数々は、やはりはずせません。
久慈が選んだのは坂本スミ子と雪村いづみのポスター、中尾ミエと東京キューバンボーイズのポスターなど。
懐かしい名前だと思う人はこのポスターを見て「にやり」とするでしょうし、初めて見る人は「いったいどんな人なのだろう」と興味をそそられるでしょう。
いずれにせよ、見る人の目を必ず留めさせるポスターであることに間違いはありません。



状況劇場や天井桟敷のポスターのコーナー。
《毛皮のマリー》のポスターの中に小さく書き込まれた文章に注目します。
「愛しの我がピエール・ボナール様 貴殿の御作品を犯した私の姦通の罪をお許し下さいませ 横尾忠子」。
イメージの借用を確信犯としてやってのけ、それをさらにブラックなユーモアで包んでしまうやり方は、ある意味演劇的といえるのではないか、と久慈学芸員。作品の細部に注目です!



第2室、1970年代のスピリチュアルな作品の背景には、ベトナム戦争時代のアメリカのヒッピー文化、あるいはビートルズのインドへの傾倒、ノストラダムスの大予言、日本沈没、超能力の流行などがあったことが紹介されました。

そして第3室の1980年代に入ったところで、地震!
みなさん一瞬、固まりました。あとから聞いたところでは、福島市内は震度4。久しぶりに少し大きな揺れでしたが、さすが福島の方々は慣れています。早々にトークは再開されました。
資生堂オイデルミンのポスターや、箱根駅伝のポスターなどを紹介しながら、最終展示室へ。



2010年に国立国際美術館で開催された「横尾忠則全ポスター展」のポスターを紹介。
唇や目、眉がピンクに塗り残された真っ黒い女性のプロフィールという、度肝を抜くようなイメージの作り方には驚かされます。



2012年に神戸市に開館した横尾忠則現代美術館のポスターに描かれる機関車のイメージ。横尾さんは機関車を随分使ってきていますが、もしかしたらこれは自画像的な意味があるのではないかと、久慈学芸員。

横尾さんの作品にはいろいろな解釈が可能なのでしょう。そしてつい見る私たちも解釈したくなってしまいます。必ずしもそれがうまくわけではありませんが、楽しかったりします。
細部に注目です。細かいところをよく見ると、いろいろな発見が必ずあります。その時代を知っていてもいなくても大丈夫。是非、皆さんも作品の前で妄想を膨らませて下さい。

途中でハプニングもありましたが、楽しくギャラリートークは終了いたしました。
次回は6月8日[土]午後2時です。

A.Y.

横尾忠則ポスター展、明日ギャラリートークです。

横尾忠則ポスター展も会期半ばとなりました。早いですね。

先週、詩人の和合亮一さん、グラフィック・デザイナーの中山千尋さんによるワークショップを行いましたが、引き続き明日は、当館学芸員・久慈伸一によるギャラリートークを開催いたします。

会場をまわりながら、作品にまつわるお話しをしていきます。作品を巡ってさまざまな角度から語られる言葉は、時に鑑賞の邪魔になることもありますが、新たな発見につながることもあります。面白さを引き出してくれることもあります。すでにご覧になった方にも、これから展覧会を楽しもうという方にも、鑑賞のガイドとなるような楽しいトークができればと、私たちも努力をしております。なかなか難しいのですが・・・。

5月18日[土]14:00~ チケットをご持参の上、企画展示室入り口にお集まり下さい。
ここです↓


皆様のご来館を心からお待ちしております。

A.Y.

ワークショップ「私自身のための広告ポスターを作ろう!」 5月11日

先週土曜日、5月11日に「横尾忠則ポスター展」関連ワークショップの二日目が開催されました。

4月27日の初日は、詩人の和合亮一さんとともに自分自身と向き合って言葉を探しました。その後二週間の間に、それぞれイメージを膨らませ、コラージュの技法でポスターを作るための材料集めをしてもらいました。さて、いよいよ制作です。

二日目の講師は、福島市でグラフィック・デザイナーの仕事をしていらっしゃる中山千尋さん。グラフィック・デザインには「クライアント」が必ず存在します。実際は、そのクライアントの意向や予算に合わせて仕事をしなくてはならない、と作例を見ながらお話しして下さいました。でも今回はクライアントも自分、そしてデザイナーも自分です。自分の表現したいものを、クライアントの目とデザイナーの目との二方向から見つめるという作業が必要だったといえるでしょう。



作業が始まると、皆さん真剣そのもの。しーんと静かな室内で、紙がこすれる音やハサミの音が響きました。



「他の人の作品も見てみましょう。」
「横尾展をもう一度見に行ってもいいですよ。」
時々頭の中を解きほぐしながら、制作が続きました。

三時過ぎ、和合さんが駆けつけて下さって、講評会です。



実は完成できなかった方もいらっしゃいましたが、それぞれがプレゼンテーションをし、中山さん、和合さんの講評をいただきました。どれもがそれぞれに自分と向き合って見つけた形、言葉、そしてポスターだということがよくわかりました。



未完成だった方は、一週間の間に完成品を提出していただき、最後には横尾さんから講評をいただくことになっています。そしてエントランスホールに展示もいたします。どうぞご期待下さい。

講師をして下さいました和合亮一さん、中山千尋さん、有り難うございました。
そして横尾先生、どうぞよろしくお願いいたします。

A.Y.

ワークショップ「私自身のための広告ポスターをつくろう」 4月27日

先週土曜日、4月27日に「横尾忠則ポスター展」ワークショップが開催されました。

詩人の和合亮一さん、グラフィック・デザイナーの中山千尋さんと一緒に、2日かけて「私自身のための広告ポスター」を作ります。ちょっと奇妙なタイトルのワークショップですね。

実は展覧会と大いに関係があるのです。横尾さん29歳の時、「ペルソナ展」というデザイン展に出品します。参加者は田中一光、福田繁雄、勝井三雄、宇野亜喜良、和田誠、永井一正、粟津潔、細田巌、木村恒久、片山利之と横尾さんの11人。まだ若き横尾さんにとって、蒼々たるグラフィック・デザイナーとともに出品できるまたとないチャンス。意気込んで自主制作にとりかかりました。

その時制作したのが、「誰もが考えながら誰もがやらなかった自分自身のための広告ポスター」(『横尾忠則自伝』より)でした。



旭を背景に、薔薇を手にした横尾さんが首つりをしています。そこに英文で「ぼくは29歳でついに頂点に達し、首を吊って死ぬ」という死亡宣言のコピーを書き加えました。
「このポスターには過去の自分を埋葬すると同時に未来の自分を再生させるという願いと意味があったが、同時にモダニズム・デザインへの決別宣言でもあった。」(『横尾忠則自伝』)と、横尾さんは書いています。

この作品はもちろん展覧会に出品されています。

私たちも「自分自身ための広告ポスター」に挑戦しようという、考えてみれば無謀なワークショップ。しかし事前に和合さん、中山さんと打ち合わせをましたが、なかなか奥が深い面白いテーマです。

初日は和合さんとことばのワークショップ。

まず、和合さんは横尾さんの作品との出会いからお話しを始められました。
高校の国語の先生になりたての20代。何か表現をしたい、でもどうしたらいいのかわからない、そんな悶々とした日々を送っていたときに横尾さんの画集と出会ったそうです。そして「死後の世界」を描くということからヒントを得ます。自分は一度死んでしまった。死の側から世界を見たらどうなるのか。



生きることと死ぬこと。創作の原点はそこにあるのではないかとおっしゃっていたのが印象的でした。

さて、では実際にどのように言葉を組み上げていったらいいのでしょう。
二つのキーワードがありました。一つは「無意識」。そしてもう一つが「コラージュ」。無意識の中から拾い上げてきた言葉を、ぶつけ、つなげ、つづける。そうしてひとつながりの文章に作り上げていく。







ワークシートを書きながら、横尾展で作品を見たときの言葉を書きとめながら、最後にそれぞれがいくつかのコピー(らしきもの)を作り、発表しました。かなり斬新なものもありましたよ。



ポスターに作り上げるのは二週間後の5月11日。ポスターも「コラージュ」の手法を使い、雑誌の切り抜きや写真やさまざまなイメージを貼り合わせて作っていきます。そのための素材集めが宿題となります。

最後に和合さんと中山さんからのアドヴァイス。言葉がイメージを規定することもあるけれど、イメージが言葉を引き出すこともある。素材集めをする中で言葉が変化することもあっていいのです。

さてさて、参加者のみなさん、どのようにイメージを膨らませていらっしゃるでしょう。楽しみにしています!

A.Y.