2020年4月の記事一覧

「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ展」第一章

当館は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、5月10日まで企画展・常設展含め全館臨時休館となりました。

企画展「ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」についても残念ながら中止が決定となりました。再開を楽しみにされていた皆様には心よりお詫び申し上げます。何卒ご理解の程、お願い申し上げます。
観覧券の払い戻し対応については、本展公式HPよりご確認ください。
http://www.fct.co.jp/Japonisme_F/



中止を受けましたが、会場では美しい作品群がいまも展示されています。
ぜひ皆様にご覧になっていただきたいので、前回に引き続き、本展の紹介を行なっていきます。

 

本展は全6章で構成されています。

はじめの第1章は「自然への回帰―歴史主義からジャポニスムへ」

ヨーロッパの一般大衆が初めて日本文化に触れる機会を得たのは、1862年のロンドン万国博覧会と1867年のパリ万国博覧会でした。
海を渡りやってきた日本の珍しい品々は、古典的な芸術ルールに慣れていたヨーロッパの人々に衝撃を与え、多くの芸術家や工房が日本趣味に基づく作品の制作に着手しました。

ここでは、日本美術の影響がもっとも強く認められるジャポニスムの初期段階の作品を紹介しています。
日本的な装飾や直線的・平面的な表現、大胆な構図など、日本らしさが明確に表現されています。

 

しかし一方で、作品の仕上げ方は、設計通りの完璧な仕上がりが目指されており、日本美術の特徴のひとつである偶発性の美の追求は無視されています。
なめらかな表面と計算通りにデザインが精緻に反映されているのが優れた作品という、西洋の伝統的な意識は変わらずに示されていました。

 

それでは作品を何点かご紹介いたします。

  

こちらは、ハンガリーを代表する製陶所のジョルナイ陶磁器製造所が作成した《滝に植物蝶文スツール》(1896年)。
ユーリア・ジョルナイが日本の布地を見本にデザインしました。
蝶の後ろに縦に長く伸びているのが滝です。もともとの布地デザインでは滝は青色でしたが、黄金色に変わりました。(筍のようにも見えるような?)
背景の赤に色が映えて調和のとれた豪華で美しい装飾となっています。

 

 

  

続いては、マルク=ルイ・ソロン(伝)、ミントン社制作の《尾長猿文飾壺》(1877年頃)。
深い藍色の地をバックに、イチジクの木の枝を渡る尾長猿が精巧な絵付けで描かれています。また、幾何学文様が描かれた丸文が何か所かに配されています。
躍動感あふれる見事な造形と装飾のいずれにおいても日本美術の影響が表れている逸品です。

 

 

  

展示室でひときわ目を引くのが、アール・ヌーヴォーを代表する芸術家エミール・ガレの《菊花文花器》(1896年頃)。
日本美術でよくみられる帯状の霞や靄の上に、色鮮やかな菊の花々が描かれています。
植物学者としての側面ももっていたガレは、自邸の庭で2,500種以上の植物を栽培し、その中には日本由来の品種も相当ありました。
日本のことを「キクの国」と呼び、日本美術に強い興味を抱いていたガレの趣味が顕著に示されています。

 

 

  

                                

こちらは、フランスの陶芸家ジョゼフ=テオドール・デックによる《花鳥文花器》(1880年頃)です。
みずみずしい自然の描写、今まさに飛んできたかのような生命力に満ちた鳥の表現が素晴らしいです。
日本の花鳥画を思わせる作品ですが、黄色と目の覚めるようなスカイブルーの色の組み合わせは日本では中々生まれなかったのではないでしょうか。

また、作品左右の側面には、口に輪を咥えた獅子がいます。東西の表現が混ざったような造形に感じられます。
見れば見る程おもしろい作品です。

 

 

    

最後にご紹介するのは、フランスのフランソワ・ロラン、ロラン&フィス・ファイアンス製陶所作《花枝にとまる鳥図花器》(1872年頃)です。
灰色の地にダイナミックな筆使いで花鳥図が描かれています。正面には、花のもと枝にとまる鳥が一匹、裏面には、植物のあいだを二匹のトンボが飛んでいます。
日本の陶磁器や水墨画を参照して描いたのでしょうか。手本を見つめながら絵付けに励む作者の姿が想起されます。

 

 

ほかにも1章ではジャポニスムの影響がよく分かる作品群が展示されています。

当時西洋で巻き起こった日本ブームの熱が伝わってくるようです。

  

 

 

 

次回は第2章をご紹介します!

ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ

3月24日より開幕した企画展「ブダペスト国立工芸美術館名品展 ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」。

5月10日までの開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、4月19日から5月6日まで急遽臨時休館となりました。

観に行く予定だったけれども行けなかったという方もいらっしゃるかと思います。web上ではありますが本展についてこれから何回かにわたりご紹介していきたいと思います!

  

 

 

まずは、素晴らしい作品群をお貸出し頂いた「ブダペスト国立工芸美術館」についてご説明します。

同館の創設は1872年に遡ります。1896年に建築家エデン・レヒネルの設計によって建物が生まれ変わり、ハンガリアン・アールヌーヴォーを代表する記念碑的建築となりました。まさに建物自体が作品です。(ちなみに美術館の屋根には、ジョルナイ陶磁器製造所製のタイルが使われているんですよ!)

そして当時の館長イエネー・ラディシッチ氏の下で、若い世代の芸術家達を刺激するような名品・優品群が収集され、また同時に彼ら現代作家の作品も多く購入されました。その結果、国際的に名高い第一級のアール・ヌーヴォーコレクションが形成されるに至ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場展示室にて ブダペスト国立工芸美術館の外観・内観写真紹介コーナー

 

 

本展のテーマは「ジャポニスムからアール・ヌーヴォーへ」。

同館から本展には、日本趣味、いわゆるジャポニスムの影響が感じられる作品群がセレクトされ出品されています。

19世紀半ばに開国した日本から多くの文物が西洋に渡り、欧米では日本ブームが巻き起こりました。新しい表現を開拓したいと模索していた芸術家達にとって、目新しい日本の文物や美術作品はまさに天からの啓示のようなものでした。

浮世絵が印象派やゴッホなどのポスト印象派に影響を与えたことは広く知られているかと思いますが、このように日本の品々が欧米に影響を与えた文化現象のことを「ジャポニスム」というんですね。

 

ジャポニスムが瞬く間にもてはやされた後、19世紀末に流行を見せるのが「アール・ヌーヴォー」様式です。

アール・ヌーヴォーは表現としては、有機的な植物モチーフや流線的な表現が特徴です。その根底には、自然そのものの造形美に目を向け、芸術品に取り入れる日本美術の考え方・姿勢が影響源のひとつとして表れています。

 

 

本展に出品されている作品も、日本美術の造形的特徴やモチーフを率直に反映させたものから、さらに一歩踏み込み、作者のオリジナル性溢れる表現へと昇華させたものまで様々な形で日本美術のエッセンスが表現されています。

ジャポニスムからアール・ヌーヴォー期の宝石のように美しい工芸品を通して、西洋から見た日本、また私たちが考える「日本らしさ」「西洋らしさ」に思いを馳せることができる展覧会です。

 

次回からは、展示風景をご紹介していきます!