福島県立美術館ブログ

福島アートアニュアル展 触って、話して、見て楽しむ美術鑑賞ワークショップ

3月4日(土)、「福島アートアニュアル2023展」の関連イベントとして、「触って、話して、見て楽しむ美術鑑賞ワークショップ」を開催しました。

このイベントは、視覚障害者の方々と晴眼者の参加者とがいっしょに、視覚以外の感覚や言葉を用いて作品を鑑賞するワークショップで、毎年1回開催しています。

今年は企画展「福島アートアニュアル2023 境界を跨ぐ―村越としや・根本裕子」に際して行いました。

出品作家の根本裕子さんに講師になっていただき、会場に展示中の《野良犬》シリーズをみんなで触れて、感想を言葉に出しながら鑑賞しました。
陶土で形作られ焼き上げられた犬たちを鑑賞した、その様子をご紹介します。

 

今年も午前と午後の2回にわけて鑑賞会をそれぞれ行いました。

嬉しいことに参加者が例年より多く、午前午後合わせて23名の方がご参加されました。
視覚障害の方と晴眼者の方が同じグループになるようなグループ分けで、各回4~5名ずつ4グループに分けて活動を行いました。

 

はじめに、参加者・スタッフ全員実習室に集まります。
スタッフから「福島アートアニュアル展」と本日のワークショップについて、簡単に概要を説明します。

次に自己紹介をし、根本さんからこれから行う鑑賞ワークショップについて、視覚情報や感じたことなど情報をどんどん言葉に置き換えてグループで共有してほしいということ、他の人の意見を受けて作品のイメージが変化するのを楽しんでもらいたいということなど、お言葉をいただきました。

 最初の自己紹介の時点ですでに盛り上がるなど、みなさんすぐに打ち解けられて良い感じです。

 

 

さっそく展示室に移動します。

まずは一番手前にいる野良犬のところで全員集合。

ここでスタッフから鑑賞の流れについて説明を行います。
グループごとの活動になりますが、最初に晴眼者の参加者の方には、自分たちが空間のどの辺りにいるか・展示室の広さ・明るさなど状況説明をしていただくことをお願いしました。
つぎに視覚障害の方を中心に、そして晴眼者の方も作品に実際に触れます。
目で見える情報、触ってわかる情報、感じたこと、思い出したことなど、各自の感想を言葉に出して共有しようというのをお伝えしました。
みんなで丁寧に、ほかの参加者の意見にも耳を傾け、会話をとおして新しい見方に出会えることに期待です。

 

 

さて、グループに分かれて鑑賞スタートです。

犬が部屋のどこら辺にいるか、どういう姿勢でいるか、また犬の表情など「見える」情報を言葉にしていきます。

触って、皮膚のしわやただれを感じ取ったり、爪や口など一部釉薬がかかっている部分とそうでない部分との違いに気づいていきます。

威嚇して怪我のある犬については「野良犬でこれまで大変な思いをしてきたんだね」など、その犬がそれまで辿ってきた背景も想像します。

ポージングやサイズ感を含めて、その犬の力が強いか弱いかを推測したり、「威嚇しているけど目線は正面を向いてないから実は怯えているのでは?」「意外と気肉質だね~」というように、複数人で鑑賞すると自分一人では気づけなかった側面を発見して「確かに!」と盛り上がりました。

  

  

 

また、今回は作家の根本さんもいらっしゃるので、制作期間や制作工程、技法等、疑問に感じた点をその場でご本人に聞けるのがとても有り難かったです。

 

鑑賞時間の約40分はあっという間でした。

最後は各グループで部屋をぐるっとして、沢山いるほかの野良犬たちの前でも足を止めながら展示室を出ました。

 

触察鑑賞のあとは実習室に戻り、参加者一人ずつ感想を述べて共有します。一部紹介します。

・触って分かる細部の情報を言葉で伝えるのはできたけど、情景を言葉にするのは難しかった

・見たときの感情を言語化する難しさを感じた

・事前に一人で見たときとは見え方が変わって見えた

・触ってみて、野良は野良なりの苦労があると感じた

・触感としては冷たいけど、いろいろ想像しているうちに、温かさを心と頭で感じることができた

・自分一人では気づけない視点を、みなさんと楽しく話しながら触りながら感じられたのがよかった

・展示の配置にも意味があるだろうなと感じた

・目が見えているはずなのに気づかなかったことがあるのを、見えない人から教えてもらえた
 このような機会がもっとあると嬉しい

などなど

 

「参加してよかった」と言っていただけたのが本当に何よりでした。

この鑑賞ワークショップは毎年行っていますが、そのたびに驚きと新鮮さ、鑑賞する楽しさを感じます。

今回の発見と気づき、反省点等、次年度ワークショップの内容に繋げていきます。

ご参加いただいたみなさん、そして根本裕子さん、本当にありがとうございました。

創作プログラム「ピンホールカメラを作って撮影してみよう」開催しました

2月4日(土)、当館実習室にて創作プログラム「ピンホールカメラを作って撮影してみよう」を開催しました。
講師は須賀川市出身の写真家、村越としやさんです。

村越さんには、3月5日まで開催されていた「福島アートアニュアル2023」にご出品いただいていました。

箱にあけた小さな針穴から入る光によって外の像を写し取る「ピンホールカメラ」。
今回の講座では、ピンホールカメラを手作りし、風景や人物などを撮影し、最後に暗室で現像をしました。

午前中はカメラづくりです。
村越さんが準備した型紙を元に、黒い厚紙をカッターで切り抜いていきます。

 

切り抜くのは全部で3枚。
切り抜いた紙に切り込みや折り目を入れ組み立てると、3つの小さな箱ができあがりました。

この3つの箱を組み合わせて、光が入り込まない暗箱が完成。
箱ができたところでピンホールづくりへ。
小さく切ったアルミ板を、紙ヤスリで薄く削っていきました。

ここで一番大事な穴あけの作業。
まち針を使ってアルミ板にピンホールをあけます。
きれいに穴があいているか、ライトボックスの光を当てて確認します。

ピンホールがあいたアルミ板を、箱に切り抜いた穴に貼り付けます。
最後にピンホールの上にパーマセルテープを貼ってシャッターを作り、カメラの完成です! 
午前中はここまで。

 

午後からは撮影・現像作業をしました。
まずは撮影の流れについて村越さんから説明をしていただきました。
それぞれ作ったカメラのピンホール面から印画紙面の長さと、ピンホールの大きさを元に、F値(絞り値)を計算します。
撮影場所の明るさから露出時間(シャッターを開けている時間)を決め、撮影へ。

部屋を真っ暗にして、印画紙を箱の中にセットし、最初の1枚は試し撮りです。
ピンホールカメラを持って、全員で屋外に出て撮影します。


試し撮りが終わると、部屋を真っ暗にして現像作業を行います。
デジタルではないので、現像するまでどのように撮れているのか分からないわくわく感があります。

カメラの中から印画紙を取り出し、現像液→停止液→定着液→水洗という流れで浸していきます。
現像液の中で真っ白な印画紙に像が浮かび上がる様子はとても面白いです。
現像した写真(ネガ)を見ながら、箱に隙間があいていないか、露出時間は適当かなどを村越さんに相談します。

ここからはそれぞれの作業へ。

1、暗室で印画紙を箱の中にセットする

2、外に出て自由に撮影をする

3、暗室に戻って印画紙を取り出す

4、現像作業

これを時間がある限り繰り返していきました。


講座の日は曇ったり急に晴れてきたりと、天気が変わりやすかったため、露出時間を調整しながら撮影していました。

現像したネガの中から気に入ったものを、引き伸ばし機を使ってネガからポジに反転する作業をします。
時間いっぱいまで、みなさん撮影と現像に取り組んでいました。
現像した写真をお互いに見せあいながら、
「どこを撮ったの?」
「この写真おもしろいね!」
などと、楽しそうにお話されていました。

 

今はデジタルカメラやスマートフォンで気軽に写真を撮ることができ、写真を撮る仕組みについて意識することはなかなかありません。
今回の講座は写真の原理を体感する貴重な機会となりました。

受講者の方からいただいた感想(一部)です。

・カメラのことをもっと深く知れて、体感できてよかったです。
・カメラを手作りして実際に写真が撮れるなんて驚きです!
・写真のしくみや成り立ちを理解でき、写真ができてくるのが”出会い”みたいでおもしろかったです。

村越さん、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

今年も、おとなりアーティスト・学校連携共同ワークショップ参加校作品展がはじまりました!

当館では、県内の子どもたちを対象とした「学校連携共同ワークショップ」を2003年より行っております。福島県ゆかりのアーティストを講師に招き各学校等でワークショップを開催しています。今年度は、FRIDAY SCREENのお二人、よしもとみかさんを講師としてお招きしました。参加した子どもたちによる成果展が2月4日からはじまりました。

 

FRIDAY SCREENのワークショップのテーマは「もりもりもじ!」です。私たちの周りに溢れている「文字」をテーマにしたワークショップです。

 

福島市教育委員会教育研修課(ふれあい教室)

ふれあい教室のテーマは、「空間に自分の好きな言葉を植えよう」です。自分の好きな言葉を「植物のような」デザインにし、その言葉が地面から生えているように立体を作りました。

 

展示室に足を踏み入れると、まるで植えられたような「文字」が迎え入れてくれます。「ぐーん」は展示室の天井を突き抜けるくらいの大きさです。

 

重い「あ」、軽い「あ」、喜んでいる「あ」など、いろんな「あ」を描きました。

 

郡山市緑ヶ丘中学校・郡山第一中学校(美術部)

こちらのテーマは、「君×(駆ける)  kimi-kakeru」です。友達の走る姿に音をつけて音をデザインしました。漫画でよく見かける効果音を、友達の走る姿にぴったりの音とデザインで表現しました。「ペムッペムッペムッ」「すっっすっ」「ドウタッ」。それぞれの個性が光ります。

 

 

よしもとみかさんのワークショップのテーマは、「私のいまを色と形で表現してみよう」です。よしもとさんと学校の先生が、子どもたちに合う素材や画材を選び、それぞれの学校で違う内容のプログラムをつくりました。

 

会津坂下町立坂下中学校(文化部)

 

10メートルのキャンバスに、全身を使ってダイナミックに描きました。躍動感ある作品です。

 

会津若松市立第二中学校(美術部)

プラスチックの板に紙を貼り、オイルパステルで色を塗りました。やわらかな色合い、個性的な形が独特な存在感を放っています。

 

いわき市立小名浜第三小学校(2年生)

 

よしもとさんが鳴らすピアノの音から、色や形のイメージを膨らませ、赤・青・黄の絵の具だけを使って描き、色々な形に切りました。子どもたちの小さな手から次々と楽しい作品が生まれていきました。

 

小野町立小野小学校(5年生)

 

正方形の紙に数字を書いて画面を分割し、オイルパステルで色を塗りました。割りばしで引っかいたり、オイルで溶かして制作しました。小さな画面に数字が楽しげに描かれています。

 

西郷村立米小学校(1・2年生)

 

赤・青・黄3色の色水を大きな画用紙に垂らします。紙の端を友達ともって、画面上で色水を動かします。3色が混ざり合うことで複雑な色調が生まれ、幻想的な作品です。

 

子どもたちに「つくる喜び」を与えてくださったFRIDAY SCREENのお二人、よしもとみかさん、当事業にご協力くださった多くの方々に心より感謝いたします。

 

おとなりアーティスト・学校連携共同ワークショップ参加校作品展は、2月26日(日)まで開催しています。子どもたちの充実した活動の足跡がダイレクトに感じられます。みなさまのご来場をお待ちしております。

 

会場:当館企画展示室B

入場:無料

開館時間:9時30分~17時(入館は16時30分まで)

休館日:6日(月)、13日(月)、20日(月)、24日(金)

 

創作プログラム「シルクスクリーンでオリジナルTシャツを作ろう!」を開催しました

1月15日(日)に当館実習室にて創作プログラム「シルクスクリーンでオリジナルTシャツを作ろう!」を開催しました。講師は、版画家の大河原健太さんです。

大河原さん着用のTシャツは大河原さんがデザインしたもの。大河原さんは人気ブランドのデザインの仕事もされています。

 

「シルクスクリーンはどんな版画?」「木版みたいに反転しないの?」の受講者の質問に、大河原さんは実演開始。下準備が済んだ版に白いインクをのせてスクィジーでのばすと・・・

 

黒い画用紙に大河原さんが描いた絵が現れました!実際の工程を見て、みなさん納得。

仕組みがわかったところで、作業に入ります。

 

まずは、下絵の準備です。下絵をあらかじめ準備されていた方も多くて、木枠のついたA4サイズの版と下絵のサイズ調整を行いました。木枠の内側2㎝ほど余白をつくると、印刷しやすくなるので、そのサイズに収まるようにします。

 

 

下絵を版にトレースします。版を浮かせて、ペンタイプの描画材を使って下絵をなぞります。

 

 

面の部分は、面相筆に描画剤をつけて塗っていきます。

 

 

絵を版に写し終わったら、版を裏にしてスクィジーで乳剤をのばして、目止めをします。

 

 

乳剤をドライヤーで乾かし乾燥させます。

 

 

洗い油を版に塗り、筆を使って描画剤を溶かします。その後、版を水で洗い、乾燥させます。

 

洗い油で描画剤を溶かすと、トレースした線や面部分の細かな目にインクが通る状態になります。

 

午前はここまでです。

 

午後からいよいよ印刷していきます。初めに、多色刷りとグラデーションの色付けの仕方をレクチャーしてもらいました。

 

シルクスクリーン用の絵具やアクリル絵具から自分の使いたい色を選びます。アクリル絵具を使う場合はメディウムを混ぜて、水飴くらいの固さに調整していきます。また、色に透明感を出していきたい場合はメディウムを足すと効果的です。

 

さあ、印刷開始です。

版上の使わない絵はマスキングテープで目止めをしておき、インクを絵の横に多めに置きます。

 

 

スクィジーを斜め45度の角度で引きます。

 

 

絵が写りました!

 

刷り終わったら、版を水洗いし、乾かします。版を何度も使うことができるので、持参のトートバッグやTシャツなどにどんどん印刷していきました。

 

 

こだわりの作品が次々と出来上がりました!

 

 

 

 

受講者の方からです。

 

・とても楽しかった。シルクスクリーンについてよく理解できた。

・自分の絵がプリントされてうれしい!

・反転など考えなくてもそのまま版にできるなど簡単で大変楽しめた。

 

みなさん、ご自分のこだわりがつまった作品をつくりあげていて、どの作品も素敵でした。困っている時にはすぐにアドバイスをして、細やかに指導してくださった大河原さん、ありがとうございました!

芸術鑑賞講座を開催しました

12月10日(土)、早川博明氏(前当館館長)による今年度最後の「芸術鑑賞講座ー名画との対話」第4回目を開催しました。

今回ご紹介した西洋美術の巨匠は「フェルメール」です。

 

前回のレンブラントと同じく、17世紀オランダで活動したフェルメール。
現存する作品は多くてもわずか30数点ほどのみです。
その希少性と高い人気から、フェルメールは所蔵館の目玉の一つとして扱われており、美術展でもフェルメールはその展覧会の「顔」として特別な輝きを放っています。

光の微妙な加減を描き出し、落ち着きと謎めいた雰囲気を演出する技巧もさることながら、一目でこれはフェルメールだ!と分かる独自のスタイルを確立させたのはよく考えると凄いことですよね。現在の高い名声と人気も踏まえて、まさに唯一無二の画家と言えるでしょう。

 

 

ご参加いただいたみなさま、早川さん、ありがとうございました!

 

今年度の鑑賞講座はこれで終了ですが、2023年度も早川さんによる鑑賞講座は引き続き行う予定です。

日時および講座内容のテーマはまだ告知できませんが、初回が6月以降になる予定ですので、春にはホームページや美術館ニュースで鑑賞講座の年間予定をお知らせいたします。

 

来年もぜひご聴講にいらしてください。お楽しみに!