福島県立美術館ブログ
創作プログラム「うるしをみがいて作るピカピカ猫のブローチ」を開催しました
7月30日(土)に当館実習室にて創作プログラム「うるしをみがいて作るピカピカ猫のブローチを午前と午後の部で開催しました。今回は、当館にて開催中の特集展示「みんな大好き!福島ねこづくし展」の関連ワークショップです。講師は、漆芸家の平井岳さんと綾子さんです。
岳さんは、制作に加えて漆掻きの仕事もしています。国産の漆が貴重で手に入りにくくなっていることから、自分で漆を採取するようになったそうです。映像を見ながら漆掻きの現場について解説していただきました。
実際に使っている漆掻きの道具をみせてもらいました。
数日前に山に入って漆を掻いた岳さんの道具です。刃の形状が独特で、掻く道具はずっと昔から変わっていない伝統的なものです。漆掻きに携わっている人は岳さんを含めて福島県ではお二方だけ。自然と向き合いながら、木から樹液を1滴1滴採取するという話をみなさん興味深く聞きました。
漆のお話を聞いた後は、猫のブローチをつくっていきます。まずは、綾子さんの実演です。
作業工程がわかったところで、制作開始です。岳さん、綾子さんがつくった漆が塗られた猫型のプレートをみがいていきます。塗ってある色、塗り方もランダムなので、どんな色や模様がでてくるかはみがいてみてのお楽しみです!
みがくのに3種類の研磨剤を使います。1番目に使うペースト状の研磨剤、2番目、3番目のクリーム状の研磨材です。1番目はこの中では粒子が粗いですが、粗いといっても目には見えない粒子の大きさです。2番目、3番目に進むにつれて粒子が細かくなっていきます。粒子を細かくしていくことでツヤを出していきます。また、どのくらい模様を出すかはそれぞれの好みで、銀色の表面を残してもOKです。いい感じになったと思えば、次の研磨剤に進みます。
細かい所は綿棒を使ってみがいていきます。
ヤスリも使います。日常生活では使うことのない目がとても細かいヤスリで、光沢を出していきます。銀色部分をこするとメタリック感が出ます。
3番目の研磨剤の段階にいっても、みがきが足りないと思ったら、1、2番目の研磨剤にもどってみがいても大丈夫です。いったりきたりしながら自分好みのピカピカ具合までみがいていきます。
ブローチの表面をエタノールで拭き取ります。岳さんにピンを付けてもらって完成です!
岳さんと綾子さんから「漆は年月が経つと強くて固くなる不思議な塗料」「漆は経年で色が明るくなり発色がよくなるので、猫ブローチは使ううちに明るくなっていきます」「お手入れはたまに指でみがいてみてください」と教えていただきました。
最後に出来上がったばかりの「ピカピカ猫ブローチ」を付けて、特集展示「みんな大好き!福島ねこづくし展」を鑑賞しました。今回は、制作も鑑賞も楽しむプログラムでした。
受講者の声です。
・うるしが身近に感じられるワークショップでした。
・1人1人ちがう模様でかわいかったです。
・うるしのことがわかってよかったです。国産うるしの伝統を感じました。
・磨くのに没頭できたので、気持ちもすっきりしました。
暑い中参加してくださったみなさまありがとうございました!漆に親しむ機会を提供してくださった岳さん、綾子さん、ありがとうございました!
令和4年度 第Ⅱ期コレクション展
当館では、7月16日(土)から10月16日(日)まで、2階常設展示室にて「第Ⅱ期コレクション展示」を開催しております。
今回はその展示の様子をご紹介します。
【展示室A】
入って最初のコーナーでは、『特集展示 みんな大好き!福島ねこづくし展』(7月23日~8月21日)に関連して、「動物づくし」を展示しています。
この展示は当館の収蔵作品から、佐藤玄々(朝山)や斎藤清などの、動物をモチーフにした愛らしい彫刻や絵画の数々を紹介しています。
その奥では、「関根正二と大正期の洋画」を展示しています。
関根正二は福島県白河市に生まれ、1915年には二科展に初入選するも、1919年に20歳という若さでこの世を去った夭逝の画家です。
ここでは関根正二を始めとし、岸田劉生や石井柏亭、飛田昭喬など、大正期から昭和期にかけて活躍した画家たちの油彩画を展示しています。
【展示室B】
展示室Bでは、『生誕100年 朝倉摂展』(9月3日~10月16日)に関連して、「戦後社会とリアリズム」の展示をおこなっています。
戦後間もない時期、日本では多くの社会問題が噴出していました。
そうじた時代の中で美術家たちは、1940年代に起こったリアリズム論争を出発点とし、単なる自然の再現に留まらない「現実」の描写を社会の中に求めていきました。
安部公房は社会事象を記録して伝えるルポルタージュの手法を唱え、それに触発された高山良策など前衛美術会の画家たちはシュルレアリスムに通じた手法で政治や社会によって歪曲された心象を描き出しました。
また、画家が社会に身を置いて切実な実感のもとに対象を描き出すべきだと主張した美術評論家の針生一郎に影響を受け、朝倉摂や佐藤忠良、中谷泰、吉井忠らは研究会を立ち上げ、漁村や工場に取材して具象表現による絵画を追究しました。
とりわけ福島県いわきの常磐炭田には多くの美術家たちが訪れ、上記に挙げた人物たちの他、宮崎進や伊藤和子らがズリ山や炭坑長屋の風景を描いています。
さらに、こうした社会にまなざしを向けたリアリズムの美術は、洋画のみならず、横山操や渡辺学といった日本画家たちにも波及しています。
【展示室C】
展示室Cでは、アメリカの美術とヨーロッパの美術を展示しています。
ジョン・スローンや清水登之、野田英夫といったアメリカン・シーンの画家たちの他、アンドリュー・ワイエス《農場にて》、ベン・シャーンのポスターや《ラッキードラゴン》など、アメリカのリアリズム絵画を展示しています。
また、ヨーロッパの美術ではカミーユ・コローの作品を展示しています。
【展示室D】
最後の部屋では、「斎藤清の版画」「現代の版画」を展示しています。
斎藤清の版画では「霊峰」シリーズを中心に1980年代の作品を公開しています。
その向かい側で、加納光於と百瀬寿による、主に1980年代から1990年代にかけての版画作品を展示しています。
構成的な手法を凝らした斎藤清後年の作品と、色彩による実験を試みている加納光於と百瀬寿の作品をぜひ見比べてみてください。
「第Ⅱ期コレクション展示」は10月16日(日)までとなっております。
一般・大学生 280円(団体220円)
高校生以下 無料
企画展と関連した展示が目白押しですので、ご来館の際には併せてご覧ください。
ぜひお誘いあわせの上、ご来館をお待ちしております。
創作プログラム「お気に入りの絵を彫ろう 漆の沈金体験」を開催しました
7月10日(日)に当館実習室にて創作プログラム「お気に入りの絵を彫ろう 漆の沈金体験」を午前と午後の部で開催しました。講師は、今年の2~3月にかけて当館にて開催した、福島県ゆかりの若手アーティストを紹介する企画展「福島アートアニュアル2022」に出品いただいた漆芸家の吾子可苗さんです。
はじめに作業工程を説明していただきました。
次に実演です。
「面にしたい場合は線を交差させたり、何本も線を彫る」「線を太くしたい場合は数本線を引いていく」など、わかりやすく教えていただきました。
さあ、各自で制作の時間です。
まずは、皿の上にチャコペーパーをおいて、各自用意したイラストをのせて、鉛筆でなぞっていきます。
図案が漆の皿に写りました。
お皿に写った線を加工した太い釘でなぞり、浅く彫っていきます。釘を立てて持ち、ギリギリと音がすればうまく彫れている証拠です。
「漢字を彫るのが難しい!」との声に、「最初は大まかなところを彫って、釘に慣れてきたら細かいところに彫り進んでいきましょう」と吾子さん。
彫り終わると、表面をきれいに拭き取ります。そして、漆を模様にすり込んでいきます。漆は触れるとかぶれることもあるのですが、挑戦した人は吾子さんの丁寧な指示のもと、気をつけて漆を擦り込みました。
表面についた漆を拭き取って、いよいよ本金を、真綿をつかって模様に蒔き付けます。丸くふわふわふわと蒔き付けていくのがポイントです。
線が金色で浮かび上がると、その美しさにみなさん気持ちが高まります!
お皿の表面についた金粉をきれいに拭き取ったら、完成です。1週間漆が乾くまで、濡れたティッシュを入れた袋で保存します。袋は密閉せずに口を3㎝ほど開けておきます。
受講者の声です。
・初めて漆をつかって模様をつけたので、楽しかった。工夫して彫ったりするのも楽しかった。
・非常に素敵な経験ができました。金粉をつけた時の華やかな瞬間は素晴らしかったです。
・大人がするような沈金の体験をさせて頂けるのがありがたかったです。
ご参加いただいた受講者のみなさま、1週間経ちましたね。お皿にカステラを載せたい、飾りたい、愛でたいとそれぞれ使い方をお考えでしたが、使うのが楽しみですね!
今回のワークショップは、アートアニュアルにあわせた2月開催の予定が、新型コロナウイルスの影響で延期となりました。受講者のみなさまが待ち望んでいたので、無事に開催することができうれしい限りでした。お申し込みいただいたみなさま、吾子さんありがとうございました!
創作プログラム「こけしの源流を想像して、こけしに絵を描こう」を開催しました
6月26日(日)に当館実習室で創作プログラム「こけしの源流を想像して、こけしに絵を描こう」を、午前と午後の部で開催しました。今回は、当館にて開催中の企画展「東北へのまなざし1930-1945」の関連ワークショップです。展覧会のポスター、チラシのデザインを担当された軸原ヨウスケさん(デザイナー)が講師です。
はじめに、伝統こけしの系統の特徴を説明していただきました。
続いて、熟練の伝統こけし工人さんの制作工程の映像を見せていただき、制作意欲が高まっていきます。
いよいよ「幼少期の自分を投影したこけしをつくる」に挑戦です。
まずは、小さい頃の自分を思い出しながら、シートに自分の顔を筆で描く練習です。墨汁と食用の染料(赤・青・黄・緑)を水で溶いたものを使います。
軸原さんにいただいたアドバイスは、「筆に慣れること」「気持ちよくすすっと描ける線、柄を考案して描いていく」でした。
次はロクロの使い方の実演です。ロクロを使ってこけしの髪や模様を描くことができます。
みなさんもロクロを使って模様を入れていきます!
一発勝負なので、筆を入れる受講者の方も手回しロクロを回す軸原さん、美術館スタッフも集中しています。
さらに顔や髪、胴模様を自分好みに仕上げていきます。
最後に、みなさんでこけしの記念撮影をしました!どのこけしもつくった人の“その人らしさ”が表れています。
軸原さんと伝統こけし工人の早坂さんです。
震災で落ち込んでいた時に軸原さんの本(残念ながら絶版)をきっかけにこけしに魅了され癒やされた「こけ女」の方、おじいさまが土湯のこけし工人だった方、現在も鳴子でご活躍されている工人さんなど、こけしと密接な関わりがある方々が軸原さんとこけしに引き寄せられるように集まりました。こけしの奥深さを感じた一日でした。
受講者の方からの感想です。
・想像した以上に筆づかいや絵付けは難しかったが、作品を作る過程が楽しかった。ロクロで色をつけることもできてよかった。
・とてもたのしかったです!!
・工人の方のすごさを体感できました。
ご参加くださったみなさま、ありがとうございました。小さなこけしに大きな魅力がつまっていることを教えてくださった軸原さん、本当にありがとうございました。
芸術鑑賞講座を開催しました
今年も当館前館長の早川博明氏を講師に、全4回講座の「芸術鑑賞講座ー名画との対話」を開催いたします。
西洋美術史のバロック時代の巨匠たちを各回1人ずつ取り上げ、名画に秘められた絵画表現の意味と魅力を解説します。
6月11日(土)に第1回めの講座が行われました。今回ご紹介したのはルーベンスです。
ルーベンスは「王の画家にして画家の王」という異名を取るほど、当時のヨーロッパで名声を響かせた天才画家です。
代表作《マリー・ド・メディシスの生涯》などの歴史画や、神話画、祭壇画ではドラマチックな表現の力量がふんだんに表れており、一方で肖像画や家族を描いた絵では、人物の生命力が伝わってくる生き生きとした感じが、色づかいや肌の表現によって巧みに再現されています。
宮廷や当時の権力者から沢山の注文を受け、画家として大成功をおさめた彼の多才な手腕ぶりを、作品をお見せしながら解説しました。
ご参加いただいたみなさま、早川さん、ありがとうございました!
次回第2回めの開講予定は、
日時:8月13日(土) 10:30~12:00
テーマ:「バロックの巨匠たち(2)-ベラスケス」
です。
今年は会場を講堂にし、受講の事前申込みは不要ですので、開催日に直接当館講堂までご来場ください(聴講無料)。
次回以降の予定については下記のページに載せております。
https://art-museum.fcs.ed.jp/%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E4%BA%8B%E6%A5%AD/%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E4%BA%8B%E6%A5%AD/%E9%A4%A8%E9%95%B7%E8%AC%9B%E5%BA%A7
ご来場をお待ちしております!