福島県立美術館ブログ
創作プログラム「シルクスクリーンでオリジナルTシャツを作ろう!」を開催しました
1月15日(日)に当館実習室にて創作プログラム「シルクスクリーンでオリジナルTシャツを作ろう!」を開催しました。講師は、版画家の大河原健太さんです。
大河原さん着用のTシャツは大河原さんがデザインしたもの。大河原さんは人気ブランドのデザインの仕事もされています。
「シルクスクリーンはどんな版画?」「木版みたいに反転しないの?」の受講者の質問に、大河原さんは実演開始。下準備が済んだ版に白いインクをのせてスクィジーでのばすと・・・
黒い画用紙に大河原さんが描いた絵が現れました!実際の工程を見て、みなさん納得。
仕組みがわかったところで、作業に入ります。
まずは、下絵の準備です。下絵をあらかじめ準備されていた方も多くて、木枠のついたA4サイズの版と下絵のサイズ調整を行いました。木枠の内側2㎝ほど余白をつくると、印刷しやすくなるので、そのサイズに収まるようにします。
下絵を版にトレースします。版を浮かせて、ペンタイプの描画材を使って下絵をなぞります。
面の部分は、面相筆に描画剤をつけて塗っていきます。
絵を版に写し終わったら、版を裏にしてスクィジーで乳剤をのばして、目止めをします。
乳剤をドライヤーで乾かし乾燥させます。
洗い油を版に塗り、筆を使って描画剤を溶かします。その後、版を水で洗い、乾燥させます。
洗い油で描画剤を溶かすと、トレースした線や面部分の細かな目にインクが通る状態になります。
午前はここまでです。
午後からいよいよ印刷していきます。初めに、多色刷りとグラデーションの色付けの仕方をレクチャーしてもらいました。
シルクスクリーン用の絵具やアクリル絵具から自分の使いたい色を選びます。アクリル絵具を使う場合はメディウムを混ぜて、水飴くらいの固さに調整していきます。また、色に透明感を出していきたい場合はメディウムを足すと効果的です。
さあ、印刷開始です。
版上の使わない絵はマスキングテープで目止めをしておき、インクを絵の横に多めに置きます。
スクィジーを斜め45度の角度で引きます。
絵が写りました!
刷り終わったら、版を水洗いし、乾かします。版を何度も使うことができるので、持参のトートバッグやTシャツなどにどんどん印刷していきました。
こだわりの作品が次々と出来上がりました!
受講者の方からです。
・とても楽しかった。シルクスクリーンについてよく理解できた。
・自分の絵がプリントされてうれしい!
・反転など考えなくてもそのまま版にできるなど簡単で大変楽しめた。
みなさん、ご自分のこだわりがつまった作品をつくりあげていて、どの作品も素敵でした。困っている時にはすぐにアドバイスをして、細やかに指導してくださった大河原さん、ありがとうございました!
芸術鑑賞講座を開催しました
12月10日(土)、早川博明氏(前当館館長)による今年度最後の「芸術鑑賞講座ー名画との対話」第4回目を開催しました。
今回ご紹介した西洋美術の巨匠は「フェルメール」です。
前回のレンブラントと同じく、17世紀オランダで活動したフェルメール。
現存する作品は多くてもわずか30数点ほどのみです。
その希少性と高い人気から、フェルメールは所蔵館の目玉の一つとして扱われており、美術展でもフェルメールはその展覧会の「顔」として特別な輝きを放っています。
光の微妙な加減を描き出し、落ち着きと謎めいた雰囲気を演出する技巧もさることながら、一目でこれはフェルメールだ!と分かる独自のスタイルを確立させたのはよく考えると凄いことですよね。現在の高い名声と人気も踏まえて、まさに唯一無二の画家と言えるでしょう。
ご参加いただいたみなさま、早川さん、ありがとうございました!
今年度の鑑賞講座はこれで終了ですが、2023年度も早川さんによる鑑賞講座は引き続き行う予定です。
日時および講座内容のテーマはまだ告知できませんが、初回が6月以降になる予定ですので、春にはホームページや美術館ニュースで鑑賞講座の年間予定をお知らせいたします。
来年もぜひご聴講にいらしてください。お楽しみに!
創作プログラム「想像のお庭を作ろう」を開催しました
12月11日(日)に当館実習室にて創作プログラム「想像のお庭を作ろう」を開催しました。講師は、美術作家の杉浦藍さんです。
今回のプログラムは、事前準備として、参加者に日常生活の中で自分のまわりにあるものを写真に撮ってきてもらいました。それをA4の紙に印刷し、色紙として制作に使っていきます。
参加者も杉浦さんもいろんな写真を前にワクワク。「これは何かな?」「ロディだよ!」「これは?」「水滴が付いた麦茶のコップ」など、聞いてみないとなんだかわからない不思議なものから、脂がのったステーキ、タイヤ、レゴなど、ユニークなお気に入りのものがたくさん集まりました。
次に、杉浦さんに葉や茎のつくり方のコツを教えてもらいました。
見本の想像の植物には葉脈があると思ったら、葉脈に見えていたのは道ばたで見かけたカラスよけネットだったり、穴が開いている葉っぱと思いきやプラスティックのカゴだったり。写真の柄や形、色などを生かして切り取り、貼り付けて立体にしていきます。
さあ、好きな色紙と容器を選んで制作開始です。
杉浦さんは自分のやりたいように自分だけの植物をつくってください!とのことで、自分のペースで制作していきます。
撮った写真の模様を生かして、想像力を使って、手を動かして、いろいろな植物ができていきます。
和気あいあいと活動して、あっという間に制作時間が過ぎました。
完成です!作品をみんなで鑑賞しました。
どれもおもしろい植物です。それぞれのこだわりを聞くのも楽しい時間です!
がんばりました!ダイナミックな植物ができたね。
受講者の方からです。
・手の中でいろんな花や葉ができてきて、楽しかった。頭の中の完成図と違うものができた。
・子どもの想像力はこちらが思いもしないものを作り出すので、とても楽しく過ごせました。
・面白かったです。3歳でも参加できることがわかったのが1番の収穫でした。
楽しくて想像力を刺激する制作時間をつくってくださった杉浦さん、ありがとうございました!
創作プログラム「鍾馗様の小旗を作ろう」を開催しました
11月20日(日)に当館実習室にて創作プログラム「鍾馗様の小旗を作ろう」を開催しました。今回は、当館にて開催中の企画展示「亜欧堂田善展」の関連ワークショップです。講師は、伝統工芸須賀川絵のぼりの吉野屋六代目大野青峯さんです。
まず、大野さんから絵のぼりの成り立ちについてお話がありました。江戸時代に男の子が生まれると、のぼり旗に絵を描きお祝いするようになりました。「須賀川絵のぼり」は白河藩主松平定信の御用絵師亜欧堂田善が、和紙や布地に唐の守り神である鍾馗を描き、庭先に立てたのが始まりで、田善から弟子・安田田騏へ、田騏から吉野屋の初代大野松岳へと継承されて、今に至ります。
お話が終わり、制作の開始です。
はじめに、オリジナルの落款を作ります。自分の名前をそれぞれ考えたデザインで型紙に書いていきます。
型紙から各自がデザインした文字をカッターで切り取っていきます。ここで切り取る際のポイントがあります。型紙の字や図がスポッと抜けないよう、線が曲がるところやぶつかるところは、切り取らないでつなぎとして残すようにします。
落款ができあがったら、鍾馗様の図柄を選びます。
左の鍾馗様は不動、真ん中は四方八方に目を配り、右は動きがあるポーズをとっています。大野さんは、左は長男、真ん中は三男、右は次男へののぼり旗としておすすめするそうです。みなさんは、自分の好きな図柄、お孫さんへのおくりものなど、それぞれ選ばれていました。
さあ、馬毛のハケを使って顔料をすりこんでいきます。
顔料を付けすぎると滲み、逆に足りないとかすみます。加減を調整しながらすりこみます。
仕上がりはどうでしょうか?
第1段階はこれで完了です。鍾馗様の全体図が小旗に付きました。
第2段階は、顔料が付かなかったつなぎの部分(サンプルでは赤い箇所)を、面相筆で描いていきます。
細い線が途切れたつなぎ部分は、繊細な筆づかいが求められるので、サンプルと見比べながらみなさん慎重にじっくりと筆を運んでいました。
同様に、自作の落款にも顔料をすりこみ、つなぎ部分をうめていきます。
みなさん途切れている部分を丁寧につないで仕上げていきました。
最後に、アイロンをして小旗に棒とひもをつけてもらいます。
完成しました!
自分だけのオリジナルの小旗が出来上がりました。
受講者の方からです。
・こんなに本格的にやるとは思っていなかったのでびっくりです。感動です。
・大変良かったです。孫にプレゼントいたします。
・筆でかくのは難しかったけれど、きれいにできあがってよかったです。
お子さんが小さい時に吉野屋さんにのぼりを作ってもらい、毎年端午の節句にのぼり旗を立てている参加者の方がいらっしゃいました。地元に根付く伝統工芸を体験できる機会をつくってくださった大野さん、アシスタントの安齋さんありがとうございました!
創作プログラム 「ドローイング、ドローイング、ドローイング。」楽しかったです!
創作プログラム
「ドローイング、ドローイング、ドローイング。」
講師:美術家・小沢剛氏
日時:11月3日(祝・木)
場所:美術館エントランスホール、庭園
参加者:高校生23名
11月3日、秋晴れの気持ちのいい日、美術家の小沢剛先生をお招きし、23名の高校生とともに、ドローイングをテーマにしたワークショップを開催しました。その様子をご紹介しましょう。
9時半。開館と共に大きなクラフト紙が敷き詰められたエントランスホールに集合。
さて、これからいったい何が始まるのでしょうか。
まずは小沢さんが「ドローイング」って何、そしてこれから何をするのかを簡単に説明して下さいました。「ドローイング」とは画材を手にして紙の上で腕を動かす、その痕跡のこと。今日は二つの方法でドローイングをしていきます。
その前に、緊張をほぐすアイスブレイク。みんなで常設展示室に向かいました。
それぞれの展示室で、「自分だったらどの絵が欲しい?」という小沢さんの問いに10秒で回答。絵の前で、どこが好き、どこが気になったかを発表しながら、少しずつ気持ちをほぐしていきました。
最後の展示室には小沢さんの「ベジタブル・ウェポン」シリーズ8点が展示されています。若い女性が野菜の銃を構えた不思議な写真を前に、どのように作品が制作されたのか、そこに込められた小沢さんの想いをお聞きしました。
鑑賞が終わったところで、エントランスホールに再集合。
いよいよドローイングに取りかかります。最初は約2メートル四方のクラフト紙に墨でドローイング。しかも音楽に耳を傾けながらの描画です。
でも、いきなり大きな紙に描くのは大変。まず小さな紙でエクセサイズです。小沢さんがのこぎりを叩いたり、縄跳びをぶんぶんとまわしたりして音を出し、それを聞きながらA3の画用紙にドローイングをして墨の感じをつかみました。
さあ、本番です。15分程度のオーケストラの演奏を聴きながらクラフト紙にドローイングをしていきました。演奏が終わったところで、一旦手を止め、それぞれの作品について参加者の話を聞きながら小沢さんが丁寧に講評。そして今聞いた音楽が、クラウディオ・アバド指揮ベルリンフィルの演奏によるチャイコフスキーの「1812年」という曲で、1812年のフランス・ナポレオン軍のロシア進軍を撃退するロシア軍の様子を表現したものであることが紹介されました。しかし今年2月のロシアのウクライナ進攻後、演奏するのはふさわしくないという意見もあるいわくつきの曲だそうです。芸術が政治に利用されることがある、そして社会状況によって作品の解釈が大きく変化することを知りました。
次に、自衛隊による同じ曲の演奏が流れました。実際の大砲の音が加わり、印象がかなり異なります。
午前中は二つの演奏をバックグラウンドに、筆に一杯墨を含ませて滲みを用いて描いたり、ドリッピングしたり、あるいは細い筆で線を描いたり、思い思いに耳と手と体を使って大きな紙に描きました。
さて、午後は一転、美術館の庭でパノラマドローイングです。最初は4人ずつ、次に8人ずつ、位置を換えながらグループで円を作り、A4の大きさの画用紙に鉛筆で、それぞれが目の前に見えている風景を描いていきます。それらを円形につなげればパノラマになるのです。
最後は、美術館正面の彫刻、井上武吉作《my sky hole 82-2》の周りに集まって全員で大きな一つの円を作り、庭園、美術館、図書館など周囲の風景をスケッチしました。
それらを一つのパノラマ画にする作業は美術館スタッフの担当。別室でパソコン作業により個々の画像を繋げて1枚の長い紙にプリントアウトし、パノラマに仕上げていきます。
その間、エントランスホールで高校生たちはアートブックの制作に取り掛かりました。午前中、自分が描いた墨ドローイングから好きなところをA3の大きさにトリミングし、切り取ります。8枚切り取り、ストーリーを思い描き、構成を考えて順番を決めていきました。そして最初のエクセサイズで描いたA3のドローイングを表紙にして、糊で貼り合わせていけば、1冊のアートブックが完成です。
大きな紙に描いたものを、小さくトリミングしていくと、イメージの印象が大きく変わるものです。余白を大きく入れてみたり、ある部分にフォーカスしてみると不思議に物語が見えてくることがあります。
それぞれのアートブックができたところで、お互いの作品を鑑賞。自分は誰のどこのページが気に入ったか、好きか、いいところを見つけて発表し、作品を講評しあいました。
そうこうしている間に、パノラマドローイングが出来上がってきました。最後にみんなで作った一つの風景を観賞。
観察、接続、思考、感情、偶然、即興、鉛筆、墨汁、小さな画用紙、身体サイズの紙、そして編集。今日体験したいろいろなドローイングのやり方、そして楽しみ方を振り返りました。
盛りだくさんの一日。スタッフも、高校生たちのパワーに圧倒された熱い一日でした。
それぞれの墨ドローイングを1枚ずつ使って作った共同アートブック、パノラマドローイングは、現在エントランスホールで展示しています。是非ご覧ください。
実は震災後の2012年、小沢さんは同じエントランスホールで《あなたが誰かを好きなように、誰もが誰かを好き》(通称ふとん山)を展示して下さいました。多くの子供たちが遊びに来てくれたのですが、今回の参加者の中にも二人いました。感無量でした。今回のワークショップも参加者の記憶のどこかにとどまり、10年後、20年度、何かのきっかけで思い起こしてもらえれば嬉しいです。小沢さん、本当に有難うございました。